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『遊びと人間』の紹介

 今回は,『遊びと人間』(カイヨワ,多田道太郎・塚崎幹夫訳,講談社学術文庫,1990)についてご紹介します(以前,この本の書評を書いたことがあったのですが,それを載せていたWebサイトがなくなってしまったため,こちらに移すとともに,改めて書き直して公開しています)。本書はホイジンガの『ホモ・ルーデンス』と関連します。よろしければ『ホモ・ルーデンス』の紹介記事もご参照ください。


どのような本か

 ホイジンガの遊びの理論を批判的に引き継ぎ,発展させた論著です。本書では「遊び」が4つの範疇のアゴン(競争)アレア(偶然)ミミクリ(模擬)イリンクス(眩暈)に分類されます。この分類は現在でも,遊びの理論の基礎となっていて,かなり有名です。このほかにも,カイヨワは遊びをパイディア(遊戯)ルドゥス(競技)という相反する2つの要素からなるものとみなしています。パイディアは統制されていない自由な性質を示す要素であるのに対し,ルドゥスは無償の困難を好んで規則に従うという要素であるとされ,これらが2つの極をなすという考え方になっています。以上の考え方がとても有名で,よく引用されています。『ホモ・ルーデンス』と同様に,遊びに関する研究を行うのであれば,本書は避けては通れないといってよいでしょう。


批判の多い遊びの4分類

 著者はホイジンガの遊びの理論を継承し,遊びを4つに区分しただけではありません。この分析によって,「遊び」の傾向から人間社会の特徴を浮き彫りにし,文明の発展と動向を示した点は興味深いと思われます。

 しかし,カイヨワの理論(遊びの4分類)は,近年のゲーム研究では批判されています。よく読まれてはいますが,すでに乗り越えられている部分も多いと思います。ホイジンガやカイヨワのみを引用して何かを述べるだけでは,遊びやゲームの研究として不足したものになってしまいがちです。

 カイヨワの遊びの4分類は批判されることも多いですが,様々な文献で引用されています。一般に,たくさん引用される研究は良い研究であるといわれます。カイヨワの分類はわかりやすく,議論しやすいという点が特徴だと思います。


 『ホモ・ルーデンス』と同様に,関連する分野の研究者にとっては必読の文献となっています。やや文章量が多いですが,読み物として面白いと思います。

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