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手続き的記憶としてのゲームプレイ操作

 今回は,ゲームプレイ操作のスキルについて,心理学の視点から考えてみます。一言でゲームといっても多種多様ですが,主にアクションジャンルで要求されるような,手と目を協調させながら行う操作に着目します。


手続き的記憶

 ゲームプレイにおける操作という行為は,自転車に乗ることや自動車の運転をすることに比較的近いといえます。ゲームプレイ操作のほとんどは,目で見た情報を処理して,手と指を動かして操作することの繰り返しです。ゲームプレイにおける操作スキル(技能)は,同じ行動の繰り返しによって次第に獲得されていきます。最初のうちはぎこちない動作だったものが,何回か反復されるうちに,なめらかな動作に変わっていきます。

 ゲームプレイ操作をすることを可能にしている運動技能は,いったん身につくと意識的な処理を伴わずに自動的に機能し,かつ長期間にわたって保持されます。心理学では,このような運動技能は「手続き的記憶(procedural memory)」と呼ばれています(「的」を抜いて「手続き記憶」と呼ばれることもあります)。


コマンド入力の例

 手続き的記憶の特徴として,言葉でそのやり方を説明することが難しいということが挙げられます。たとえば,対戦格闘ゲームのあるコマンド入力ができない人に対して,入力が成功するために必要なことを伝えようとしたとしましょう。説明書に書いてある方向キーとボタンの入力順序は伝わっているとして,それ以外の情報を伝えることは思ったよりも困難ではないでしょうか。

 「↓↘→+○ボタン」であれば,「最初に指をここ(下方向)に置いて,十字キーをこんなふうにグリッと動かして,ここ(右方向)まできたところで同時に○ボタンを押す」といったように言い表せるかもしれませんが,教えられる側が実践してみるまで微妙なコツが伝わりにくいかもしれません。


長期的に定着した自動的処理

 いったん身についてしまえば,手続き的記憶として保持されたゲームプレイ操作は,意識しなくてもほぼ自動的に実行されます。自動化された一連の操作には思考を必要としないため,その操作の際のプレイヤーの負担は減ることになります。つまり,そのプレイヤーには余裕があるため,別のことに集中したり,新しいことを考えたりすることができます。このように,自動的に処理可能な操作を多く獲得したプレイヤーは,外側から見れば上手に見えるかもしれません。

 心理学では,手続き的記憶は長期記憶(long term memory)に分類されています。すなわち,いったん定着すれば,長期間にわたって保持されるということです。前回に紹介した「ゲームがうまくなるために必要なこと」という記事で,前に学習したことが後のほかの学習にプラスの影響を与える「正の転移」という現象について解説しましたが,獲得された手続き的記憶は新しいゲームプレイ操作の学習を促進することがあります。たとえば,「↓↘→+○ボタン」を手続き的記憶として定着させたプレイヤーは,「↓↘→↓↘→+○ボタン」というコマンド入力操作を,まだ定着させていないプレイヤーよりも早くできるようになるということが考えられます。


 以上のことから,手続き的記憶は,アクションジャンルにおいて必要になる「手と目を協調させながら行う操作スキル」を支える機能であるといえます。アクションジャンルにおける熟達は,手続き的記憶を増やし,組み立てて構造化していくプロセスであるともいえるでしょう。

 心理学の視点をゲーム研究に応用すると,面白いトピックがたくさん出てきます。今回はアクションジャンルの「学習」現象について説明を与えたにすぎません。今後,機会があれば,類似したトピックの実証的研究も紹介していきたいと思います。

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