揚げ物の思い出
とんかつは、子どもの頃の日常食だった。最近は揚げ物をすることも、店で食べることも控えるようになったが、たまに食べると昔の味を思い出す。
子どもの頃の揚げ物には、天ぷらやかき揚げも多く、釣りの成果のキスを揚げることもあった。しかし中心はカツで、ころもをたっぷりつけて小学生の自分が揚げることもあった。揚げたてのカツを包丁でザクっと切って、当時はプルドックの中濃ソースをドボドボかけて、ごはんや千切りキャベツと食べた。今と変わらない食べ方で、大人も子どもも好きな味をだと思う。
とんかつを自分で揚げる小学生もあまりいないと思うが、豚ロースの切り身に塩コショウして、粉をまぶして溶きタマゴにくぐらせ、パン粉をまぶして揚げるだけだ。揚げる油の温度や揚げどきは子どもには難しいが、当然親が付いていて、チェックは入る。キツネ色に揚がれば菜箸で取り上げて網にのせて粗熱を落ち着かせる。
とんかつもそうたが、揚げ物の記憶は油の匂いと、油のはぜる音になる。バチバチという油の音は夕時の台所の記憶のひとつだ。
母親が肉屋での事務仕事をパートタイムでしており、子どもの頃は肉を豊富に食べることができた。父親は休みに自分をバイクにのせ海や川の釣りに出掛けた。その成果が天ぷらになることも多かったが、肉に比べると頻度は少ない。しかし生活と揚げ物がかなり密につながっていた記憶がある。
とんかつが食卓によくあがる前にはチキンカツがあった。これは庭のとり小屋で飼っていたニワトリのムネやモモを揚げたものだった。ひよこを買ってきて、配合飼料で大きく育てたニワトリをさばき、羽を取り、肉を切り身にしてと、ほとんどは父親の仕事で、母親はそれをすぐに揚げていたと思う。
まだ世の中が豊かになる前の時代で、チキンカツはごちそうだった。小学生になる前の自分はとり小屋のニワトリを指して、食べたい食べたいと騒いでいたらしい。そんな思い出が揚げ物にはある。