見出し画像

美団の創業者、王興氏の事件~警告で済んだ漢詩、もし呟いたらアウトであっただろう漢詩~

2021年6月19日、こんなニュースを目にした人も多いでしょう。

中国でフードデリバリー事業を展開する美団(美团)の創業者、王興(王兴)氏がSNSに投稿した唐の時代の漢詩(唐詩)が、中国政府に批判的・反体制的な唐詩であったとして問題になった事件。

アリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏による昨年の政府批判が連想され、呟いた5月に香港市場に上場する同社の株価が急落しました。

ところで彼が呟いた漢詩とは、どんな漢詩でどのような意味なのか、気になる人も多いと思うので調べてみました。

1. 警告で済んだ漢詩(唐詩)

まず問題となった呟きはコチラ(もちろん現在では、削除されています)

画像1

これは唐の時代に章碣という詩人が、秦の始皇帝の焚書をテーマに書いた「焚書坑」という漢詩です。上記は、簡体字ですので繁体字では、以下になります。

竹帛煙消帝業虚
關河空鎖祖龍居
坑灰未冷山東亂
劉項元來不讀書

日本語で詠みあげると、以下のようになる様です。

竹帛(ちくはく)煙消えて帝業(ていぎょう)虚(むな)し
関河(かんが)空(むな)しく鎖(とざ)す祖龍(そりゅう)の居(きょ)
坑灰(こうかい)未だ冷えざるに 山東(さんとう)乱(みだ)る
劉項(りゅうこう)元来 書を読まず

だいぶ意訳すると、以下のような意味になると考えられます。

言論や思想の自由を許さず焚書で書物を焼いた煙が消え(儒学は失われ)たが、そんな始皇帝の国家運営も、むなしく消え去った。
秦は始皇帝の大宮殿「阿房宮」及び首都咸陽を、函谷関と黄河とをもって鉄壁の防衛ラインとしていたが、その甲斐もなくむなしく沈黙した
焚書した灰がまだ冷えてもいない内に、統一前の秦の端にある崤山を隔てた東側(黄河流域)では、陳勝・呉広といった反乱がおきた
秦を滅ぼした劉邦や項羽も、もともと書物を読まず勉強嫌いであり、為政者が変わっても儒学復活は期待できない

補足説明すると、始皇帝の焚書坑儒によって影を潜めた儒学が本格的に復活したとされるのは、紀元前202年の秦滅亡から数十年経ち、前漢7代目の武帝が紀元前136年に五経博士を設けてからと言われています。

画像3

王興氏がどういう意図でこの漢詩をソーシャルメディアに書いたのかは知りません。しかし、この漢詩を現中国政府への批判として捉えている人たちは、おそらく「帝業」や「祖龍居」を「現在の国体=共産党の統治」、「関河」を海外情報をブロックする「グレート・ファイアウォール」、「山東」を未だ支配が及んでいない「台湾」もしくは「海外からの民主派」、「書を読まない劉邦や項羽」を「そうはいっても現体制に変わるものが見つからない(強権的でない政府で国が安定成長するのかという)嘆き」と捉えたのかもしれません。※なお、全部推測です。

2. もし呟いたらアウトであっただろう漢詩

今回は中国政府から目立つなという警告(イエローカード)で済んだそうですが、中国の歴史や古典の中には、もしアレを呟いていたら一発でアウト(レッドカード)であっただろうなと思う漢詩があります。それがこちら。

心在山東身在吳
飄蓬江海謾嗟吁
他時若遂凌雲志
敢笑黃巢不丈夫

中国の四大奇書の一つで日本でも有名な小説「水滸伝」において、宋江が酔った勢いで潯陽楼の壁に書いた漢詩です。これを意訳すると以下のような意味になると考えられます。

心は山東にあるも身は呉にあり
今は落ちぶれているが国を憂う心は熱い
いつか志を遂げた日には
黄巣など大したことが無い奴だとあえて笑ってやろう

最後の「黄巣」とは、唐王朝の滅亡に繋がった875年に起きた黄巣の乱を起こした人物です。水滸伝は小説(フィクション)ですが宋江が登場する世界(時代)は、唐のあと100年後に成立した北宋(960~127年)の末期の時代となります。

画像2

宋江は漢詩の中で「反乱を起こした黄巣などは大したことが無い奴だ、俺はもっとすごいことをやってやる」と(酔った勢いとはいえ)宣言しているため、体制への反逆(反乱)を企んでいる人物とみなされてお尋ね者になります。それもあって宋江は、梁山泊へと立て籠もることになるのですが。

1200px-宋江浔阳楼反诗

そのため、この漢詩は「叛詩」(反詩)として知られています。

たとえ著名企業の創業経営者であっても焚書坑を投稿しただけで体制への批判だと認識されて警告を受けてしまうご時世なのに、反逆を示す「叛詩」として知られているものを、社会的に影響力ある人物がもしSNSで呟いた日には・・・と考えてみました。

日本でも古来から「物言えば唇寒し」という言葉がありますが、自分の国の古典も自由に呟けないというのは、悲しいことですね。

3. 他にも書いていますのでご覧ください

ちなみに、不真面目なのもあります(笑)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?