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【詩】宝物をそっと覗く午後~企画 "恋文求ム"〜

幼い恋は、未熟な恋は、
おままごとみたいで

だけど、それでも、
あの日々より純粋なものを
私はまだ知らない

ねえ、メキシコ人の人買いなの?

顎ヒゲを撫でるあなたを見上げて誰かが笑った
それを聞きながら私も笑った
笑いながら思った

闇夜みたいなサングラスの下に
子犬みたいなつぶらな瞳があることを
知っているのは私だけでいい

とんでもなくハチャメチャで
空回りばかり続けて
必死で背伸びしたら転んじゃったみたいな

若いね、青いね、健気だね
きっとそう言われるだろうね
それがお似合いだろうね
だけど、全然恥ずかしくない

あの頃、
一人の時間は冷たくて寂しくて悔しくて
私はたくさん泣いてしまったけれど
思い出すのはただ、
あなたとの柔らかな空気だけ

それはあなたが優しかったから
優しくて優しくて
物足りなくて心配で
優しくて優しくて
待ちくたびれて心が折れた
だけど振り返ればやっぱりそこに
薄れることなく優しさはあって、

あの日の夢に私は包まれる
人買いみたいなあなたの優しさに安堵する

あの頃、
あなたの胸の上に色が形が増えるたび
そんな表皮に嫉妬して
もっとずっと深くあなたに触れたくて
いつも以上に肌を寄せれば
喉の奥であなたが笑った

あのね、
言いたかったの
子どもだって思われたくなくて飲み込んで
でもね、
言いたかったの
本当は素直に言いたかったの

だってあなたの一番でいたいんだもん

あの日、
そう言えたらどんなによかっただろう
言えたら何が変わっただろう

純粋なものはきれいなものは
脆くて危なっかしくて
そして残酷だ

だけどそれでも、
あなたの優しさは本物で
私の一生懸命も本物で
あの日の熱い指先に今も心が震える

恋は恋でしかない
他のなににもなれない
だけど他のなにかも恋にはなれない
だからずっと恋に恋し続ける

不格好で不完全で永遠に大切なもの

あの日のあなたが愛しくて
あなたを大好きな私が愛しくて
遠い時間のすべてが愛しくて

だから
私の中にはあるのは幸せだけで
もう届かなくてもあなたに贈りたい

だってあなたの一番でいたいんだもん

言えなかった言葉は魔法の言葉
きっと、ずっと、いつまでも



最後の最後で滑り込み。
いつまでも宝物ってありますよね。
全然ダメダメなのにやっぱり宝物、って。
時々素直になってそれを眺めたら
じんわり切なくて、
でもたまらなく幸せだったりします。

三羽さん、
素敵な機会をありがとうございました。


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