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【詩】食べる夜~シロクマ文芸部~

食べる夜は美しかった。
私は境界線の椅子に座ってそれを見る。
夜が夜を食べるのをじっと見る。

明日の夜を作るためには、
今日の夜を食べ切らなくてはいけない。
それはずっしりと重い。
けれどなんとも優雅に夜はそれを食べた。
瞬きもせず、私はそれを見つめた。

黒と一緒さ。
あれはすべての色を内包する色。
俺はすべての想いを吸収する時間。
感嘆も叫びも夢も絶望も
ここには全部詰まっているんだよ。
汚れ役さ、でも必要だろう?

箱入りで、
清廉潔白な昼にはできない技だなと、
そう言って鼻で笑った夜は、
けれどどこか寂しげだった。

私は境界線の椅子から声を張った。

じゃあ、
優しいあなたにはご褒美が必要ね。

そう言って手を伸ばせば、
夜は大きく目を見開いた。

おいおい、得意なのは反射だろ?
どんなに欲しくても触らせてもらえない。
弾き飛ばされておしまいだ。

私だって、私だって触りたいから!

思わず言い募れば、
夜はさらに大きく目を見開いた。
私は心を決めて身を乗り出した。

だからここ。
ここなら大丈夫。
あなたが食べ終わったら、
ここでキスしましょう?

私たちは小さな椅子の上で向かい合う。
だけど決して混ざり合わない。
けれど一分の隙もなく密着して。
私にはない魅力的な混沌が
視界いっぱいに揺れさざめいた。

そっと背中を押されて椅子を降りれば
世界が朝を迎える。
振り返れば夜が気だるげに、
でもとても満足そうに
境界線の椅子の上で手を振っていた。

食べる夜を楽しみに、
私はまばゆい光を連れて飛び出す。

昨日とは違う昼だって、
どこかで誰かが気づいてくれるだろうか。
明日はまた違うんだって、
朝の中で迷い吹っ切れた誰かが
空を見上げてくれるだろうか。



小牧幸助さんの企画、シロクマ文芸部に
ギリギリ最終日ですが、
参加させていただきました。
お題は「食べる夜」から始まる小説・詩歌。

擬人化が好きだったりします。
こんな恋のお話も
あっていいんじゃないかな?と。
楽しんでいただけたら嬉しいです。

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