豊かな香りとダシの効いた一杯

マルコメのしじみインスタント味噌汁を飲んでいます。ドラッグストアでなぜか半額になっていたので三つも買ってしまった。
高校時代の出来事について書く。
俺の栄光時代は間違いなく高校生だった。何も何かが優れているとか、誇らしいとか、そういう見栄っ張りなものではなくて、なんというんだろうな、これまでの人生で最も楽しかった時期というのでしょうか。掛け値なしにそう言い切ることが出来る。友人たちとしょうもないことで笑い合って、しょうもないことで怒って、恥ずかしがったり、嫉妬したり。感情の振れ幅がとにかく大きかった。
途中までバスケ部に所属していた俺でしたが、顧問との衝突を口実に走るのが辛いバスケットを辞めた。そして何もすることがなく放課後チャリで色んな所に行ってみたり、ソフトテニス部に遊びに行ったりしていると、演劇部の友人から声を掛けられる。「暇なら証明やらん?」。俺の人生の転機だったと思う。演劇や照明に対して、という訳ではなく、そこで出会った友人に関して。
色々な思い出はあるけれど、今日ここに書くのはポスターについての話。地区の大会のようなものに出場することが決まった我々は、デカデカと張り出されるポスターを作成しなければならなかった。と言っても、印刷などは向こうでしてくれるので、デザインだけを用意するような形だ。
同じ演劇部ではないのだけれど、演劇部の友人の友人に、とても絵が上手い人間がいるということらしい。何故か俺の友人がその絵が上手い人間の絵を持っていて見せてくれたのだが、俺はそこで人生屈指の衝撃を受けた。絵が上手すぎる。膝はがくがくと震えて、あわわわ、としか反応できないような、今まで見たものとは明らかに一線を画す絵の上手さ。聞いたところによると独学で書いているらしいので俺はもっと畏怖する。幼少の折から、魚図鑑を模写し続けている人間がまともな感性を持っているはずがない。どんな狂人なのかと思って相対してみると、いたって普通な、特殊性癖という業を何も抱えてい無さそうな(魚に興奮する変態だと思っていた)、純朴な高校生だった。
彼にポスターの絵をお願いしようという話になり、最初は断られたのだけれど、渋々という流れで描いてもらえることになった。ここでも俺の心内の猜疑心に似た嫌な悪魔が「どうせ女の子しか描けないんじゃないの?」と囁くのだが、実際にもらった絵は女の子が可愛く描かれていることはもちろん、その足元の水面まで、その奥の岩陰まで、びっしりと書き込まれており二度目の衝撃を受ける。あまりに美しかった。ただまあ、女の子も、水面も、岩肌も、全て登場しない演劇内容にはなっているのですが。でも俺はそのミスマッチさえ彼の才能がなせる技なんだとひとしきり感心してしまった。まあ、見ようによっては、タイトルとマッチしていていいのかもしれない。
次にその絵に添えるキャッチコピーというか、煽り文というか、一言を考えることになった。俺がサッと考えたものが選ばれて、その絵の隣に並ぶことになる。おこがましいけれど、嬉しかった。俺の第二の出発点かもしれない。俺の言葉とそいつの絵が並んでいることが、心の底から嬉しかった。
その友人とは今でも交友が続いており、彼は頗る有名なイラストレーターになっている。憧れと妬みはその時からずっと抱えているけれど、それ以上に友情という美点がその遠い情景から届いている。あんまりこういうことは言っていなかったけど、俺は今でも、お前の隣に立ちたいと思っているんだぜ。だから精一杯、俺は俺にできることを続けて、お前の背に追いついてやる。そしたらまた、同じキャンバスの上に作品を載せような。俺の一つの夢です。

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