ADHDがジョギングを三日坊主にしないために
メンタル改善のためにジョギングを始めたADHDが考える自らの特性と継続のためのライフハックについて。
1.なぜ俺はジョギングをするのか
まず「なぜジョギングなのか」だけど、メンタル改善という目的が大きい。というのも、このコロナ禍で俺のメンタルはめちゃくちゃにやられている。周りの人達は口では「しんどいしんどい」言いながらもその実たいしてダメージがなかったりする印象なのだけれど、俺は本当にまいってしまっている。例えばTwitterなんかにもそれは影響していて、以前の俺はもっとポジティブな感じのツイートだったし、クソがボケがクソがボケがって今ほどは言っていなかったほんとだよ。多かれ少なかれコロナ禍では誰もが何らかのストレスを感じながら生活しているとは思うけれど、俺の場合は生活がガラッと変わってしまったのが非常に大きいと思う。
コロナ以前の2年と少しの間、俺はポートレートシリーズの被写体募集に応募してくれた人の住むところまで月に数回の頻度で遠出していた。自分の中でその生活が当たり前になっていた。詳細はまたの機会に書くけど、あれは人生最高の時期だったと思う。それがプツッっと途切れた。他のどんなものであっても代替できないから当然ガス抜きなんかできない。本当に精神状態がやばかった。
そんな日々のなかで自分の心が荒んでいくのがわかっていて、なんとかしないと「ADHD × 事務」という元々ヤバい状況の仕事にさらに支障をきたしそうだと考えた時に思い出したのが、10年くらい前に少しやっていたジョギングをした後の爽快感だった。走り終わってクールダウンで歩いている時に感じる背筋にしっかりとした芯が入って地面から垂直に伸びているような感覚。たったの数十分間ヨタヨタ走っただけなのに「人生捨てたもんじゃない」って前向きな感情がフツフツと湧いた。あの目の前の景色が、俺の世界が更新されるあの感覚。そうだ、あれだ。俺には今こそあれが必要なんだ。
2.普通はできるらしい
ということで「ジョギング始めるか」と思いたった俺はまず続けるための作戦を立てることにした。いやウダウダと考えていないですぐに始めろよとツッコむのは定型発達の論理だ。頭がマトモな奴はちょっと黙っていてほしい。
一般的に面倒くさいことを続けるコツは「始めてみること」とされる。何はともあれ始めさえすれば、ゼロ地点から進んだ距離がそのまま推進力に変換される。だからまず始めることが大切。始めさえすれば何とかなる。だから「最初のハードルを最大限の気合いで乗り越えること」。例えば「10分だけやってみる」と自分に期間を区切る暗示をかけるのも有効だ。なぜなら始まってしまえばこちらのものだからだ。最初の最初だけ乗り越えればあとは勝手に転がり始める。らしい。
3.ADHDの俺が物事を継続するための条件
一方で、ADHDの中でも三日坊主のエリート中のエリートである俺の場合はどうかというと、「普通」の人達とは2つの大きな違いがある。
①始めるまでのハードル
ひとつめは始めるまでのハードルの高さだ。報酬系が弱くて「未来の報酬を前提に今動く」ということがとにかくできない。「未来の報酬よりも目の前の不快・恐怖を過大評価してしまう」と言い換えてもいい。なにを言っているのか理解されないかもしれないけれど、一歩目を踏み出すための精神的な“準備”をするだけで貴重な一日が終わってしまったりする。
②始めてからのハードル
ふたつめは始めてからのハードルだ。俺の場合、取り掛かっても足を止めてしまう要因として、ちょっとした不快・恐怖がポンポン出現してしまうことが挙げられる。そこでストップしてしまい、億劫になり、いつの間にか実行することすら忘れてしまう。そう、いつものことだ。
では、ADHDはどのような条件が整えば物事が継続するのか。俺の場合、その条件も2つある。
①報酬の強さ
ひとつめは「強い報酬」が設定されることだ。目の前に報酬というニンジンがぶら下がっていればADHDは走れるはずだ。報酬はなるべく大きく、なるべく多く、なるべく近いところに設定するのが望ましい。それが報酬の強さになる。報酬の強さは「傾斜」を強める。傾斜はそのまま物事を継続する原動力になる。実行するのが自分の得意なことであればそこにさらに「評価」という名の報酬が得られるし、好きなことなら「実行することそのもの」が報酬になる。だから続けられる。「ADHDは好きなことをやり続けるべき」というのはその意味においてまったく正しいと思う。決して綺麗事などではなく「それしかない」という消去法なのだ。
②ハードルを下げていく
ふたつめはひとつひとつのハードルを把握してそれらを少しずつ低くしていくことだ。自分が続けられないことを分解し、止まってしまうポイントを見定めて、「不快なこと」・「恐いこと」について、なにが不快でなにが恐いのかを考えてそれらを1つずつ取り除いていくという地道な作業になる。
4.俺はどうすればジョギングを続けられるのか
最初に残念なお知らせがある。俺はジョギングが嫌いだ。「メンタルを良化させる」という目的のためにやろうとしているわけであるが、ゴールが遠すぎるので俺にとっては報酬としては「弱い」のだ。そのため、「報酬を強める」方法を可能な限り取り入れつつも、「ハードルを下げる」方法がメインになってくる。
10年前はたしか2週間くらいしか続かなかった。あの頃と違うのは今の俺が「自分がADHDであることを知っている」こと、そして自分のADHDへの対処法も知っていることだ。根性では絶対に続かない。成否の9割以上は走る前に「どうデザインするか」で決まるはずだ。
5.継続のためのライフハック〜グッズ編〜
まずは「モノ」。ランニングシューズのように当然必要なグッズもあるけど、今回のADHDライフハックとしてのグッズには該当しないので触れないでおこうと思う。逆に元々持っていたものでも、あって良かったものはここに書いておく。
①バスタオルの買い足し
これは自分としては盲点だったのだけれど、かなり重要だった。朝風呂派の俺は、理由は後述するけど夜に走ることによって一日に2回風呂に入ることになる。元々バスタオルは4枚しか持っていなかったので、このままでは2日に1回洗濯しないといけなくなる。6枚買い足して10枚にして、「洗濯は5日に1回でいい」という安心感を得ることで「ジョギングする=洗濯が増える」という悪いイメージが俺の中に定着することを防いだ。
人生は洗濯の連続だ。そして俺はワーキングメモリが足りてないが故に管理が苦手なADHDだ。洗濯までの猶予が短ければ心は圧迫される。その状況で「走らなければタオルの消耗を防げる」みたいな甘い考えが浮かぶのは何としても阻止する必要があった。
②着るもの
これも①と同じ理由だ。洗濯の回数は減らしたい。(靴下は元々めちゃくちゃな数を持っているので増やさなくて良かった。)上下5セットになるようにした。
③防水骨伝導イヤホン
これを買った。防水機能と繋がっていて耳から落ちないタイプであること、Bluetoothだからこういうのに入れたスマホと連動することが有難い。
目的はこれ↓をすること。ずっと同じリズムで腕を振りながら曲を聴いているだけで走り終わる。走っているあいだ、あんまり「運動している」とか「頑張っている」とか思わずに済む。
④靴べら
仕事用の革靴履くために買った木製のわりと丈夫なやつを持ってるのだけれど、「靴紐を結んだままのランニングシューズを履ける」というのが素晴らしかった。俺はこの世界から貧困とアイロンがけと靴紐結びが無くなることを心から願っている。靴紐を結ぶという行為が不要になったことで玄関を出るまでのハードルが三段くらい下がった感じがする。
⑤体重計
やっぱり数字に表れるものは「報酬」になる。走ってるとなんだかんだ体重が落ちてくるので毎朝測ってアプリに記録している。
6.継続のためのライフハック〜シチュエーション編〜
次にシチュエーションだ。
①コース
俺の住むアパートから1キロくらい離れたところに大きな池があって周囲に3キロくらいの遊歩道がある。毎回ここを一周して帰ってくることにしている。一定区間を何度も往復するとかではないから感覚的に今全行程のどれくらいの割合を走り終えたか分かりやすい。物事を実施する上で「全体を把握すること」はADHD共通のライフハックだと思っているので、これは大きなメリットだと思う。
②時間帯
どの時間帯に行えば身体にいいのか、とかは置いておいて、俺の場合は22時から25時のあいだの1時間くらいで走っている。
これくらいの時間帯の何が良いかというと、まずは周りに人が居ないことだ。走ってる前方を人が歩いていたりすると早く抜かそうと頑張ってしまったりして、どうしてもペースが乱れてしまう。俺の目的はタイムを縮めることではなくメンタルの改善なので無理のない一定のリズムで走ることを死守しなければならない。だから深夜のほとんど人が居ない環境は都合がいい。
次に挙げられるのは周りが真っ暗なことだ。治安がいいクソ田舎だから可能だということもあるけれど、コースにしている池周りの遊歩道は22時になると消灯になって完全に真っ暗になる。すり鉢の下方にあるコースからは池の堤防に隠れて遠くの街の光も見えないから、空を映した水面が一番明るく見えるくらいだ。目が慣れると目の前の道は見えるけれど周囲は殆ど見えない。闇の中を走る。この状況の何がいいかというと、まずはスピード感の消失だ。周りが見えないからノロノロ走っていても景色までノロノロ移り変わったりしないから気持ちも萎えない。次に「周りが見えないから没入できる」ということが挙げられる。俺は変な自意識の塊だから「自分」を意識できる状況だと何か動きがギクシャクしてしまうのだけれど、真っ暗闇とBGMだけの状況だと自分を縛る変なリミッターが外れるような感覚があるのだ。
7.最後に
走り始めて一ヶ月が経ったけれど、今のところは何とか走れている。走り終わった時の爽快感はやはり特別なものがある。肝心のメンタルの状態だけど、少しマシになってきた。仕事のときも心に余裕ができてきた気がする。
やっぱりジョギングを好きになることはなさそうで走る時間になるととにかく面倒くさくてたまらないけど、「面倒くさい」と声に出すことは自分の意識を「実行するか否か」から「実行している時の感情」までタイムラインを少し進めることができるライフハックだという気がするので、今後も積極的に「面倒くさい」と言っていこうと思う。
2022年6月10日追記
正直に言う。年末くらいからサボってた。言い訳をすると寒かった。寒すぎて家を出る気持ちが萎えた。最初のハードルが攻略不可能なくらい高くなり過ぎた。
再開したのは暖かくなったからだ。あと4月異動でバタバタしていた仕事も少しだけ落ち着いた。寒くなったときの対策は冬までに考えるとして、とりあえず今日からまた走ることにする。