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一番上の猫の話

ねこの家には4匹の猫が居る。全員血は繋がっておらず、種類も色も柄もバラバラ。

末猫はヤンキーならぬニャンキーだし、3番目の猫はわたしにデレデレ。そして2番目の猫は甘えん坊で、人は好きだが自分以外の猫は少し苦手。

我が家の猫ながら、とても個性的である。それぞれの詳細については過去の記事をお読みいただけるととても嬉しい。

ふと、今まで一番上の猫の話だけしたことがなかったことに気付いた。
今回はうちの一番上の猫について語りたいと思う。




一番上の猫はとても綺麗なコだ。
飼い主の贔屓目があるのは否定しないが、それにしても美しいと思う。青みがかったグレーの被毛はツヤツヤだし、常に凛としている。言葉少なくても佇むその姿は存在感がある。

今年で御年おんとし19歳を迎えた彼女は、若い頃はそれはそれは筋肉質な猫だった。粗相を行った後輩猫に対して彼女が制裁を加えた際は、猫が猫を殴ったとは思えぬ音がしたものだ。爪は出していなかったにも関わらず、叩かれた後輩猫たちは皆揃ってしょんもりとしていた。相当痛かったことが伺える。
19歳になった現在は流石に多少衰えたが、それでもまだまだ元気である。

彼女が強いのはフィジカルだけではない。メンタルも強い。
自分がどうしても嫌なことはしない。欲しいものは貰えるまで動かない。
猫らしいと言えばとても猫らしい。その無言の圧力はとても強い。

「◯◯はこのおやつが欲しいです。」

サイレントにゃーをしながらブレることなく真っ直ぐ見上げてくる彼女の瞳を見ていると、そんな言葉が聞こえる気すらする。
愚かな人間には彼女たちの言葉の意味の詳細まで理解することは出来ないのだが、彼女はそのことをとてもよく理解しているようだ。
彼女の欲するものがわからないので「これ?」と候補を見せると、正解だった時には嬉しそうに目を細めてスリスリしてくれる。その場合はお皿に出せば全部食べてくれる。
わたしが一番上の猫にごはんを出す時には必ず上記のコミュニケーションをとるのだが、他の家族はこれが出来ないらしい。一番上の猫が絶対にすりっとしてこないのだと言う。
尚。この一連の流れを行わずにうっかり一番上の猫のお目当てのものとは異なるものを出してしまった場合には、彼女は頑として食べない。お陰でねこの家ではよく母の悲鳴が聞こえる。

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そんな一番上の今年の誕生日。
わたしは彼女に誕生日プレゼントを用意していた。

良い和牛の切り落としである。

お肉が大好きな一番上の嗜好と健康に配慮し、ねこの自らが厳選したものだ。
一番上は夏生まれなのだが、今年の暑さの所為か、その頃の彼女は食が細くなっていた。
細い、どころか、微塵も食べない。水すら飲まない。
19歳のシニア猫である。とても心配だ。
少しでも元気になって欲しくて、少しでも食べて欲しくて、そんな気持ちで選んだものだった。

「◯◯ちゃん、ほらお肉! 焼いてあげようね。」

帰宅し、お肉を見せ、その場で焼き始める。彼女はこちらをチラリと見、力なくその場に蹲っていた。

─これも食べなければどうしよう。

一番上の様子にとてもドキドキしたのを覚えている。

彼女の鼻先に焼きたての和牛を持って行った途端、彼女はよたよたと立ち上がった。
食べやすいように小さく千切ってやれば、わしわしと食べ始めた。1枚食べ終わり、わたしを見上げる彼女の目はキラキラしている。

「まだ食べる?」

彼女の様子に声を掛け、更に半切れ千切って差し出す。彼女ははぐはぐとそれを食べ、そしてふいっとこちらに背を向けた。
何処に行くのかと見守れば、お水を飲みに行っていた。
彼女の久々の飲食にわたしはほっと胸を撫で下ろした。


……此処で、猫飼いの皆様は恐らく危惧されてることかと思う。

「え、高いごはん…大丈夫……?」

と。

駄目だった。

お察しの通りである。
うっかり高いごはんをあげると今まで食べていたものに「ぷいっ」としてくる例のアレが発動してしまったのだ。
猫飼いあるあるである。

一番上の猫の「◯◯はこのおやつが欲しいです」は漏れなく全て「◯◯はこの間の和牛が欲しいです」にチェンジした。
特にわたしの顔を見ると凄い。「ねこのこのしもべはお肉を焼いてくれるにゃ!」と学んだらしく、それはそれはキラッキラした目で見てくる。
期待に満ちた目。可愛い可愛い愛猫の期待に応えぬことなど出来ない。

わたしは毎週一番上の猫に和牛を献上することになってしまった。
まぁしかし、お陰で元気になったし夏も乗り切れたので何よりだ。
愛猫が健やかに長生きしてくれるのなら、いくらでも和牛を献上する所存だ。




因みに。和牛の渦に巻き込まれたのはわたしだけではなかった。

一番上の猫は朝も昼も夜も問わず何か食べたければ人間しもべを呼びに来る。それは、人間が寝ていようが関係ない。

「深夜にお腹が空いたならば、人間しもべを起こせばいいじゃにゃい!」

但し、彼女はわたしだけは起こしてはならぬと思っているらしい。お腹が空いた夜は、わたし以外の人間の髪を引っ張り起こしに行くのだ。

「◯◯ちゃん! 流石にね、夜中だからね? お肉は焼けないの!!!」

深夜に母の悲鳴が響き渡る。一番上の猫が「にゃあん?」と可愛らしく惚ける声がそこに被さる。
そんな夜がねこの家では暫く続いたのだった。


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