【映画】バグタッド・カフェ

12月始まってからずっと、根を積めて仕事をしていたので、一段落した時を見計らって、えいやっと有給休暇を取った。休んでる暇は無いといえば無いが、でも休んだ方が私のために良いからそうした。

さて、映画だ。前から気になっていた『バグタッド・カフェ』を見に行く。
ストーリーが始まってわりかしすぐに流れ始めた、有名な『コーリングユー』の曲。よく知ってるし、なんだかんだ聞いたことがあったけど、曲調的にもの悲しいストーリーなのかと少し身構える。

だけど、良い意味で裏切られて、すごく良い気分。なんて素敵なほっこりする映画なんだろう。見終わって、じんわりと温かい気持ちになって映画館を出た。

アメリカ西部の砂漠のような地域の、トラック野郎が立ち寄るような古ぼけたモーテルと、隣接するバグタッド・カフェ。オーナーの黒人系のブレンダは、始終ガミガミ旦那や子供を叱ってて、仕事や子育てにキリキリ舞いだ。髪もボサボサ、痩せた体でその叱りちらす様子は、実はくすりと笑えるコミカルさもある。

そこに、旅の途中で旦那と喧嘩して別れて、ひとりモーテルを訪れた、太った身体のドイツ人のヤスミン。とりあえずたどり着いてノープラン。間違えて旦那のスーツケースを取って来てしまったので、着替える服も無く、部屋にも旦那のカミソリや靴を置いてるので、クリーンナップに部屋に入ったブレンダが気味悪がる。

赤みを帯びた金髪に真っ白い肌、ブルーアイズのヤスミンは、太った身体でおっとりとカフェに訪れて、ブレンダたちの日常をじっと見る。ぐうたらな旦那と大喧嘩して追い出したブレンダは、客の前だろうが子供を叱り、スタッフにも大声を出して指示したり、おまけに小さな赤ん坊までいて、まさに手が足りない(ちなみに、この赤ん坊、まだ10代らしき息子の息子だそう;;)。

そんな中、汚れたテーブルやゴミだらけで整理されていないモーテルの受付を見たり、赤ちゃんをあやしたり、次第にカフェに集まる人たちや、ブレンダの子供たちと交流していくヤスミン。ある日とうとう、汚れに汚れた受付の部屋や、おそらくカフェも?掃除してきれいにしてしまう。

シュールなのは、訪れた時に着ていたかっちりしたジャケットやスカート、羽のついた帽子もちょこりんと被って、黙々と給水塔を長いブラシで掃除したり、カフェの屋根に登って風を起こす機械で、砂漠の砂ぼこりをザアーッと吹き散らすシーン。やると決めたら鉄の意思、掃除大好きドイツ人、みたいなステレオタイプをわざと演出してるのかな?って笑ってしまう。

でも分かるーー!と強烈に共感してしまった。私にも整理整頓癖?あるから、その片付けたい、きれいにした方が絶対に心地好い!と思ってしまう感覚、すごくよく分かる。実際は他人のものを触らないけど、本屋とかスーパーとかで、商品が乱雑に置かれてると、ついきれいに直してしまう癖は、ある。

当然、ブレンダはブチ切れるけど、整理されてきれいになった受付が、意外に心地好い。客にも反応が良い。子供たちもどんどんヤスミンに懐く。ある時、それにもブチ切れたブレンダが、赤ちゃんを奪いながら「自分の子供と遊んでな!」と怒鳴る。すぐに小さな声で「子供はいないの」とつぶやくヤスミン。

バァン!と激しく部屋の扉を閉めたあとで、静かにもう一度開けるブレンダが、言い過ぎたと謝ったのだった。そんなこんなで、カフェの手伝いも自然と始めて、それを受け入れていくブレンダ。旦那のスーツケースから出てきたマジックグッズで、ひとりマジックを練習し習得していくヤスミンは、カフェのお客の前でも披露し始めて、ちょっとした人気のカフェになっていく。

おっとり太った身体を動かして、意外に器用にマジックをしてお客さんを喜ばせたり、驚かせたり、常連客の画家のおじさんのモデルになったり。ヤスミンは自分の出来ること、新しく身につけたことを、惜しみ無く周りに与えて、どんどん変わっていく。それを受け入れて家族のようになっていくブレンダ。

だけど、ビザが切れて、労働許可も無く働いてると警察官に指摘されて、ドイツに帰るしかないヤスミン。居なくなって寂しそうなブレンダ。うそー、どうなっちゃうの?と見守る。

平凡な主婦?の女性、もしくは仕事や育児のワンオペで疲れきった女性、二人ともパートナーに恵まれず、そんな女性たちのシスターフット、自立の物語と単純にはとらえたくないけど、ああ、現実は厳しい。こうやってせっかく女二人が支えあって生活を回して、カフェを盛り立ててるのに、アンハッピーエンドか、と思いきや。

もう一度、戻ってきたヤスミン!きゃーお帰り!と心の中で拍手をする。抱き合うヤスミンとブレンダ。飛び出してくる子供たち。またカフェで歌やマジックショーをして、笑って喜ぶ様々な人種のお客さん達。
出て行ったぐうたら旦那も、実はずっと車泊で、カフェやモーテルの家族達の様子を見守っていたので、繁盛しているカフェに訪れて、見つけたブレンダは笑顔で旦那とハグするのだった。

さてさて、ただの旅行客の立場のヤスミン。またビザが、とかになるんだけど、なんと、ヤスミンを気に入ってモデルにしてた画家のオジサンが、プロポーズしに来たのだった。おおおー、アメリカ市民になれば帰らなくていいし、ずっとここに居れるよ、と。

ニコッとイエスと言うヤスミンは、改めて画家のオジサンに確認されると「ブレンダに聞いてみる」って答えたのだった。最高。
それはブレンダとの絆はもちろん、その仕事、家族まるっと含めて、ヤスミンの人生の一部になったからだ。お互いに影響しあって生きているから、相棒だから、きちんと相手と相談して決めるって、最高。もはや、男の入る余地は無い。というか、主軸が旦那がこうだああだとか、○○してくれない、という事から、自分自身にしっかりと軸を取り戻したからなんだよね。

きっと、こうやって交わって人生を共にし始めた2人は、シワシワになっても、死ぬまでお互いを支えて労って、助け合って生きるんだろう。子供が居ようが居まいが、旦那が居ようが居まいが、黒人だろうが白人だろうが、国籍が違おうが。そんなふうに見終わったあとも、映画の中の2人の温かい未来を思えるストーリーなのだった。

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