京大医学部右腕がプロ入り後も国家資格を目指す本当の理由/高校野球ハイライト番外編・膳所
膳所高校卒業・京都大学医学部人間健康科学科在籍の水口創太が、福岡ソフトバンクから育成7位でドラフト指名を受けた。膳所高校からは61年ぶり5人目、京大からは8年ぶり2人目のプロ野球選手誕生に伝統校の周辺も沸いた。
『経歴』より『学歴』と表現したくなるエリートコースは、プロ野球選手として確かに珍しい。だからこそ一挙手一投足が注目され、時に懐疑的な目も向けられた。
トピックは医学科ではないことに始まり、一時的に支配下指名へのこだわりを見せたこと、理学療法士(PT)の国家資格試験をプロ入り後に受験する意向を示したことまで。
指名への不安にリーグ戦中の実習による多忙も重なり、ドラフトが近づくほどに水口の表情は曇っていった。
そもそも『野球選手』としての水口は決してエリートではない。中学時代は強豪とは言えない軟式野球部に所属。すでに190センチ近く身長があったものの、高校野球関係者から声を掛けられることは少なかった。
高校では腰、肩、ヒジとあらゆるケガに悩まされ、ベスト16まで進んだ3年夏の滋賀大会も登板は敗退試合の1度だけ。エースナンバーを背負いながら、後に京大で同級生となる1学年下の手塚皓己に主戦を譲る形になる。
それでも高校で野球をやめるという選択肢は水口になかった。「ケガは練習の強度に体が付いていかなかっただけ。夢としてのプロは野球を始めた時からあった」。
後輩の手塚たちが21世紀枠でセンバツに出場したことも刺激に変え、1年の浪人生活の後、「リーグのレベルも高いから」とプロを見据えて京都大学野球部へと進む。
人間健康科学科でPT資格を目指すのは就職に向けてではなく、野球選手としてレベルアップするためだった。ケガの多かった高校時代の反省から、「体について勉強することが必ず自分の武器になる」。
大学では自由に練習メニューを組み立てられる環境を生かし、投げ込み量を抑えて体づくりに励んできた。摂取栄養素の管理アプリも活用して体重を増やすと、比例するように球速が伸びていく。「自分で考える分、成長も実感しやすい」。リーグ戦デビューは3年春だったが、Max152キロの本格派として一気にドラフト指名を手繰り寄せた。
2月のPT試験が終われば勉強に区切りを付け、野球一本の日々を過ごすことになる。
「1番好きな野球を職業にできることに価値がある。目標を立て、成長過程を逆算するのは野球も勉強も一緒。勉強に使っていた熱量を野球に集中することで、より成長できる」。泥臭く歩んできた野球道にようやく差した一筋の光。「楽しんでやりたい」と話す水口の視界に、いま曇りはない。
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