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あくび


読経の声が聞こえる。

木魚の音が響く。

仏像が輝く。

その繰り返し。

今日は祖父の三周忌の法事だ。

祖父が死ぬまで見たことのなかった親戚が集まる。

親戚たちは言う。

「あの人はいい人だった。」と。

「伯父さんには面倒を見てもらった。」と。

「亡くなって残念で仕方ないよ。」と。

その中で母が耳打ちをした。

「この人たちはおじいちゃんとは本当は仲悪いのよ。」と。

私にとって初めての葬式だった。

祖父とはあまり話したことがない。

年に二度、三度会いに行くとむっつりした表情で刑事ドラマを見ている姿が一番印象に残っている。

帰る、と言うと

そうか、もう帰るか。とこちらを見ずに返すような祖父だった。

たまに電話がかかってくると

元気か、勉強しているか。としか言わない祖父だった。

寡黙で取っ付きにくい気がする。

そんな人だと思っていた。

祖父が亡くなったのは大晦日の日だった。

朝からかなり寒い日だった。

父が部屋に駆け込んで私の体を揺らした。

「おじいちゃんが亡くなった。」

母は泣いていた。

私は何も感じなかった。

感じることができなかった。

悲しさも

切なさも

寂しさも

だが、その時思い出したのは一度だけ祖父が見せた笑顔だった。

私が大学に受かったことを報告した祖父が笑顔だったことを思い出した。

自分のことのように、嬉しそうな

あのにんまりとした笑顔が瞼に浮かんだ。

親戚は言う。

「あの人はいい人だった」と。

母は言う。

「おじいちゃんは人付き合いが上手くなかった」と。

そんなことはどうでもいい。

誰が祖父のことをなんと言おうと。

私の祖父はあの人だ。

あのにんまりとした笑顔を浮かべる祖父だ。

私は親戚や母の言葉にあくびで応えた。

涙が一筋流れた。

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