黒からグレーへ
中世の頃夜中を歩むものは悪魔であった。
これはガスや電気がない時代であるからこそ、街中には常に闇が横たわり不衛生な空気がある種の危険さを演出していたのだ。
一方で、現代の夜中に街中を徘徊するものは大概において大学生かサラリーマンである。
彼らは月の下をふらつきながら足を、わが家の光へと進めるのである。
ここにはスリルの欠如と安全の確保、そして何より科学文明がある。
科学的に、治安的に安全な夜が保証されている。
それはつまりグレーであるともいえる。
どれだけ文明が発達し、くっきりはっきり世界が見えても、夜道が安全であってもそれはグレーな世界だ。
それはどこまでも無味無臭の世界だ。
そんな世界で失われたものも少なくない。
美しい夜空、スリリングな夜の旅なんてものがグレーの世界が消した代表例であろう。
たまには、何もない夜に踏み入りたいものである。
光と闇、安全と危険、未来と過去、そんな境目がはっきりした単純な世界に。
どこまでも暗く重い漆黒のある夜に想いを馳せる。