ブランディングの第4ステップ:顧客理解・ウォンツ・ニーズ・インサイト
ウォンツとニーズ
ブランド戦略を構築する上で、「ウォンツ(今すぐにでも欲しいもの)」と「ニーズ(潜在意識下であれば欲しいもの)」は非常に重要な要素です。
約20年間の戦略構築の経験から、競争が激しい市場(レッドオーシャン)以外では、さらに深いインサイトまで行く手前のウォンツやニーズを抽出することでブランド戦略の要諦となることも、よくあります。
食品、飲料、家庭用品などの大衆消費財のマーケットでは、熾烈な開発・販売競争が繰り広げられています。そこではウォンツやニーズが既に出尽くしている場合が多いのです。一歩先んじて顧客のインサイトを他社よりも早く察知することが、競争に勝利する鍵となります。
インサイト(洞察・本音)
インサイトは顧客の「潜在意識下にある、まだ欲求にもなっていない意識や欲求」と私は説明しています。いろいろな書籍を読んでも、何が正しいのかはよくわかりませんし、説明しづらいのがインサイトなのです。
私はインサイトの専門家ではないので、経験上、ブランディングに使いやすいインサイトの捉え方と使い方の話をします。マーケティング活動におけるインサイトの使い方はまた別のものになると思います。その辺は気をつけて読んでいただければと思います。
また、インサイトの発掘はブランディングに非常にプラスに働きますが、それがなくてもうまくいってるブランドはたくさんあります。ですから
「インサイトが理解できないと、ここから先に進めない」
のような考え方をする必要はありません。
私がブランディングを行う際は、インサイトは必要不可欠ですが、インサイトが理解できていないのに、そこにお金と労力と時間を費やすのは無駄な場合もあると感じます。深く消費者理解をする上では不可欠ではありますが。
競合がほとんどいない新しいカテゴリーでのブランドの場合、例えば、もしあなたの会社が100年前の世界で、初めて砂漠でキンキンに冷えたミネラルウォーターを販売するとしたら…。ウオンツが強いので販売を開始すればすぐに売れることは確実です。その時点ではインサイトは必要ありません。インサイトの発掘はニーズを掘り尽くした後や、先行者利益を長期間続けるために重要となります。
インサイト調査の有用性
競争が激しい市場では、ウォンツやニーズが、掘り尽くされているのでインサイトを発掘することが、成功に結び付きやすいのです。
インサイト調査を行うには、さまざまな手法がありますが、私の実感としては、独特な感性と経験が必要です。専門の調査会社に依頼すると高額になるため、できるだけ自社内でインサイト調査を行うことをおすすめします。インサイト調査を行う過程で、ウォンツやニーズが改善点として副産物的に出てきます。
インサイト調査の進め方
ターゲットの変更がなく、新ブランドの立ち上げや既存ブランドのリブランディングを行う際には、まず既存の顧客、特にブランドの熱心なロイヤルカスタマーの意見を聞くことが重要です。
無駄なお金をかけて未顧客の被験者をリクルーティングする必要はありません。次の段階で、離脱者、未顧客などを集めて調査を行えばよいのです。
ターゲットに直接商品やブランドの質問をすることは、専門のインサイト調査会社では否定されているようです。しかし、そもそも、私のブランディングでは、それを聞かない限り、話が始まりません。
まずは、ロイヤルカスタマー(ブランドのファン)に、どの点が評価され、どの点が好きでお金を出してくれているのかを把握することで、ブランドのコアな価値を客観的に知ることができます。まずはそこから始めます。このロイヤルユーザーの招集さえままならないブランドでしたら、活動をすぐにストップするべきです。
また、ここで発掘できるネガティブなインサイトはブランド構築に非常に役立ちます。ネガティブインサイトはひっくり返せば強みにすぐ変わるからです。
ひっくり返した考え方はバリュープロポジションと言われています。ブランドの改善点もわかり、新企画や新サービスの設計に役立ちます。怖がらないで引き出してください。
調査方法
1. デプスインタビュー: 1対1の深層インタビューは最も手頃な方法です。
2. 行動観察: リアルに目の前で使ってもらったり使っていただいている録画などを通じて、商品やサービスを使っている様子を観察する。
3. フォトダイアリー: 商品やサービスを使用中の写真や動画を、例えば心が動いた時にシャッターを切ってください、というようなお願いをして、二日間ぐらい撮影してもらいます。
われわれは「フォトリーディング」🟰ビジュアル刺激法という手法を取り入れています。まず、仮説として考えているターゲットがどのようなインサイトを持っているのかをさらに仮説出しを行い、その仮説を直接的に表現しない100~200枚の写真を準備します。この写真選びは経験を要します。
被験者には基本的な情報を聞き出すインタビューを行い、その後、100から200枚の写真の中から良いイメージ、悪いイメージなどのテーマを与え、反射的に写真をピックアップしてもらい、選んだ理由を説明してもらいます。これにより感情的な反応を論理的に説明してもらうことができます。
インサイトの役割と限界
マーケティングドリブンのブランドでは、インサイトは非常に重要視されています。マーケティング戦略や戦術を策定・実行する上で、インサイトの発掘は重要な役割を果たします。しかし、ブランド戦略構築においては、インサイトはあくまで一つの材料に過ぎません。ブランド戦略の構築において最も重要なのは、強いブランド戦略を構築することです。
調査結果の分析
インタビュー後は、会話を全てテキストに起こし、インサイトやウォンツ・ニーズとなる言葉を抽出します。この作業は社内で行うべきであり、定期的に多くの人に話を聞くことで顧客理解が深まります。
そしてその中でほとんどのターゲットが潜在意識の中で持っている共通の本音であったり、思いであったり、違和感であったり、今までターゲットの心情を表現するときに明らかにされていなかったキーワードを探し出します。
これがキーインサイトになります。キーインサイトが発見できると、消費者理解が一気に深まり、強いブランド戦略を構築する確率が上がります。専門家は、このキーインサイトは行動変容を促すものでないといけないと、言っていますが、そんな簡単に見つかるものではないので、
「何人かの顧客の中で本音が出ている生の言葉、できればネガティブなほうがいい」
くらいな気持ちで見つけてみましょう。
生の声は本音や実感がこもっていて、この言葉を整えてしまっては、その価値が半減してしまうからです。
インサイトの調査会社やインサイトの専門家からは、「自分が素直になれる場所でありのままの自分を受け入れられる自由に食事を楽しむ時間を提供してくれる」のような言葉をこねくり回した提案をされることがよくあります。
正解なのかもしれませんが、私にはピンと来ません。というか、その後戦略構築に使いづらくなります。
「このお店に行ったら、とにかくいろんなものが食べられるので、行く前からワクワクして興奮しちゃう」
の方が明らかにわかりやすいし、チーム内の共通認識としても、使いやすいのです。調査担当者や解析担当者の私見が入らないようにするためにも、生の言葉で理解すべきです。
このように頑張って顧客のインサイトまでを理解している人は、ブランディングチーム、ひいては社内全体で大きな力を持つことになります。顧客の声を代弁できるからです。いろいろな場面で呼ばれて意見を聞かれるようになり、出世します。(笑
顧客がどこに響き、どこに不満を感じているのかを早く察知できたブランドが競争に勝利します。
まとめ
ウォンツ・ニーズ・インサイトの発掘は、ブランド戦略を成功させるために不可欠です。自社内でのインサイト調査を実施し、顧客の本音を把握することで、より強力なブランドを築くことができます。
インサイト調査は、手間も時間もかかり、社内でやるには大きな負担となり、ここが終了すると、一仕事終わったような満足感を得てしまいます。
しかし、この段階でのインサイトはあくまでブランド戦略構築の一材料であり、ブランド戦略そのものが最も重要であることを肝に銘じておくべきです。
インサイトの抽出でうーん???となり、プロジェクトが足踏みしてしまうことがあります。難しく考えすぎると全く的外れのものをキーインサイトとしてしまい、まったく戦略構築に寄与しない場合があります。
戦略構築のフレームを俯瞰しながら、現在地を確認しつつ、進めましょう。
SNSで、この氷山の絵が下の方が何倍も大きいものが正解だと言う指摘が何件かありました。ウォンツとニーズとインサイトが、意識無意識のどのあたりに位置しているのかをわかってもらうための図なのであって、氷山を説明している図ではありませんので、悪しからず。