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『ターミナルはどこですか?』暗中模索の中立金利

日本銀行の利上げサイクルは継続中今後の金融政策運営は、先行きの経済・物価・金融情勢次第ではありますが、現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、先行き日本銀行の経済・物価の見通しが実現していくとすれば、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現の観点から、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。 2024年9月、日銀中川審議委員の発言だ https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/ko2

    • 『金融調節の理論と実務?④』マイナス金利の意味

      過去記事①~③に続いて、金融調節の仕組みについて考えてみたい。 https://note.com/catapassed/n/n69602b2b4d99 https://note.com/catapassed/n/n2aa75469c306 https://note.com/catapassed/n/n1891c024b106 金利をマイナスにする?過去記事③では、付利のない状況で量的緩和政策を実行すると、金利がゼロになる点を論じた。基本的には金利の下限はゼロであり、ここまで

      • 『金融調節の理論と実務?③』ゼロ金利と量的緩和

        過去記事①、②に続き、金融調節の仕組みについて考えてみたい。 過去記事① https://note.com/catapassed/n/n69602b2b4d99 過去記事② https://note.com/catapassed/n/n2aa75469c306 普通の金融調節?過去記事②では超過準備が存在しない状況での金融調節を考えた。従来、少なくとも1980年代までは、超過準備が存在しないのが当たり前であり、それ以外を考える必要は基本的に無かった。しかし現在ではむしろ

        • 『植田は信じた道をいく』日本銀行の利上げサイクルは?

          2024年8月23日、日本銀行の植田総裁は国会の閉会中審査で金融政策運営について説明した。 https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&media_type=&deli_id=55335&time=1062.7 https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8108#1175.3 何が問われたのか?日本経済新聞によれば、招致が決定したのは8月6日であり、株価や為

        『ターミナルはどこですか?』暗中模索の中立金利

          『金融調節の理論と実務?②』中央銀行は何を操作するのか

          こちらの過去記事①で、日本銀行の金融調節について簡単に記した。 https://note.com/catapassed/n/n69602b2b4d99 この説明は、入門レベルのマクロ経済学でよく見られるものとやや異なっている。今回はこの点を一部補足したい。 金融調節のスキームは超過準備が存在する制度と存在しない制度で異なる。まず、本稿では、超過準備が存在しない状況を前提に議論する。 教科書的な(?)金融調節の解説とは私は「経済学の教科書」といった表現があまり好きではなく

          『金融調節の理論と実務?②』中央銀行は何を操作するのか

          『とても素敵な七月でした』為替と金利と日本銀行のすれ違い

          前項で、日本銀行が実施した2024年7月31日の政策変更について記した。 https://note.com/catapassed/n/n59fdb8322b8f この政策変更についてはその後も様々な論説が見られており、引き続き筆者の考えを述べてみたい。 ①円安軽視と第一の力、第二の力これまで、植田総裁は為替レートについて驚くほど無頓着だった。このスタンスは、「第一の力、第二の力」というロジックにも現れていた。4月の記者会見では為替と物価の関係についてかなりの時間をかけて説

          『とても素敵な七月でした』為替と金利と日本銀行のすれ違い

          『歴史は繰り返さないが、韻を踏む』日本銀行の利上げのリズム

          歴史が刻むリズム“ I think, history doesn't repeat itself. It rhymes.” 2024年7月のFOMC後、記者会見におけるパウエル議長の発言だ。 「歴史は繰り返さないが、韻を踏む(History doesn't repeat itself, but it does rhyme.)」は、米国の作家マーク・トウェインの言葉とされるが定かではない。 日本銀行の利上げの記憶果たして、日本銀行の政策金利の引き上げは正確なリズムを刻んでき

          『歴史は繰り返さないが、韻を踏む』日本銀行の利上げのリズム

          『金融調節の理論と実務?①』日銀が準備預金に利息を付ける意味

          政策金利と付利の引き上げ日本銀行が2024年7月31日の金融政策決定会合で利上げを実施し、政策金利は0.25%となった。これにあわせて、日銀当座預金(以下、日銀当預)の金利水準も0.25%に引き上げられた。日銀当預に利息を付ける制度は、正式には「補完当座預金制度」であり、この適用利率(以下、付利)が引き上げられたということだ。なぜこの制度が必要なのか、改めて確認しておこうと思う。 所要準備と超過準備議論の最初に、まず、付利が存在しない環境の金融調節を考えてみよう。2008年

          『金融調節の理論と実務?①』日銀が準備預金に利息を付ける意味

          『毎回状況は異なる。しかし、過去の出来事から学ぶことはできる。』日本銀行の10年前と現在

          労働市場、予想物価上昇率、価格設定行動、そして賃金と物価の好循環昨今の金融政策動向を眺めている方からすると、以下の記述はどう見えるだろうか。 物価情勢についてであるが、ポイントとなるのは、労働力のスラックの縮小と予想物価上昇率や企業の価格設定行動の変化の2つである。 賃金上昇については、とりわけ、今回ベースアップが復活した意義は大きい。景気回復と人手不足が続くなかで、メカニズムとして、来年以降の賃金交渉にも繋がりうる重要な一歩である。今後、賃金と物価の両者が循環しながら緩

          『毎回状況は異なる。しかし、過去の出来事から学ぶことはできる。』日本銀行の10年前と現在

          『海図なきオペレーション』中央銀行のバランスシート縮小

          前項で、今後の日本銀行のQTにともなう日銀当座預金減少について述べた。 https://note.com/catapassed/n/nfdcd23a34c76 中央銀行のバランスシート縮小には前例がいくつかあり、日銀が実施している多角的レビューでも部分的に言及されている。 FEDのバランスシート縮小例えばFEDは2022年6月から保有資産の削減を進めている。最大で9兆ドル程度あった総資産は足元で約7兆ドルだ。 https://www.boj.or.jp/research/

          『海図なきオペレーション』中央銀行のバランスシート縮小

          『全部は抜けない池の水』日銀当座預金の暗礁

          最初に確認させていただくが、これからお読みいただく(かもしれない)文章は全く面白くない。しかも分かりにくい。世の中でこんな話に関係がある人は限りなくゼロだ。もし面白いと思われた方は、かなりの変人だと自覚された方がよい。 日銀当座預金と資金決済にまつわるお話である。 2024年6月の金融政策決定会合で、日本銀行は国債買入れを減額する方針を決定した。2013年からの異次元の金融緩和で日銀のバランスシートは急拡大してきた。今後はこれが縮小していくことになる。バランスシートの縮小

          『全部は抜けない池の水』日銀当座預金の暗礁

          『1%じゃだめなんでしょうか?』それでもインフレ目標は変わらない

          前項、前々項で、日本銀行のインフレ目標2%の根拠について、黒田前総裁の説明を一部記した。 https://note.com/catapassed/n/ndfcf360eab4c https://note.com/catapassed/n/n258d0ac1f3d2 グローバル・スタンダード論やCPIの上方バイアス論は甚だ怪しい。しかし、根拠が怪しくなったからと言って日銀が勝手に目標を取り下げますとは言えない。2013年に公表された政府と日銀の「共同声明」にこう明記されている

          『1%じゃだめなんでしょうか?』それでもインフレ目標は変わらない

          『バイアスがあるというバイアス』日本のデフレが生まれた理由??

          日本銀行が2%のインフレ目標を設定しており、黒田前総裁が「グローバル・スタンダード論」をその根拠としたことについて前項で触れた。 https://note.com/catapassed/n/n258d0ac1f3d2 この時、黒田前総裁が示した根拠は他にもある。その一つが「消費者物価指数(CPI)の上方バイアス」である。2014年に黒田前総裁はこう述べた。 消費者物価指数には、指数の上昇率が高めに出る傾向、すなわち上方バイアスがあることが知られています。https://w

          『バイアスがあるというバイアス』日本のデフレが生まれた理由??

          『グローバルな2%』日本銀行インフレ目標と為替レート

          日本銀行は2%のインフレ目標を設定しており、この持続的、安定的な実現を目指している。インフレ目標の意義については様々な議論があるが、例えば、2014年3月、日銀の黒田総裁(当時)は以下のように述べた。 『(2%の物価上昇を目指すことについて)こうした考え方は、主要国の中央銀行の間では広く共有されており、多くの中央銀行が「2%」の物価上昇率を目標とする政策運営を行っていることです。つまり、「2%」は、「グローバル・スタンダード」になっているということです。』 https:/

          『グローバルな2%』日本銀行インフレ目標と為替レート

          『日銀、QEやめるってよ』国債買入残高はどうなるのか?

          2024年6月14日の金融政策決定会合で、日本銀行は「長期国債買入れを減額していく方針」を決定した。異次元の金融緩和は2024年3月の金融政策決定会合で終了が宣言されたが、その時点で国債買入れには変更がなく、実質的にはQE(量的緩和)が継続されていた。これがようやく終わることになる。国債買入減額の詳細については、市場参加者との意見交換を踏まえ、次回7月の金融政策決定会合で「今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定する」とされた。 今回の減額決定は事前に織り込まれており、債券

          『日銀、QEやめるってよ』国債買入残高はどうなるのか?

          『輪番のジレンマ』日本銀行による国債買入れの行方

          「輪番」とは日本銀行が実施する国債買入れオペレーションの通称である。なぜ輪番と呼ぶかは古い歴史があるらしいが、私は当時のことをよく知らない。呼び名はともかく、日本銀行が異次元金融緩和の出口、正常化の途に就き、この輪番の扱いが問題になっている。 2024年3月に異次元緩和は終了し、複雑怪奇だった様々な金融政策ツールは軒並み廃止の方針となったが、輪番は「これまでと概ね同程度の金額」で実施するとされた。短期金利を操作目標とした「普通の金融政策」への復帰が優先され、輪番の減額は後回

          『輪番のジレンマ』日本銀行による国債買入れの行方