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ファッションブランド&関連企業による、クリエイティブ領域での生成AI活用事例(ユースケース)

生成AIとファッションデザイン(前編)では、生成AIがどのような変化をもたらす可能性があるかについて、(後編)では、生成AIを利用する上でのリスクについて書きました。

この記事では、ファッションブランドとその関連企業による、生成AIを活用したクリエイティブ・プロジェクトに焦点を当てます。

紹介する事例の内訳は、「広告キャンペーン」が6例、「一般ユーザーとの共創」が3例、「製品(プロトタイプ含む)・コレクションのデザインプロセスでの利用」が3例、「その他」が4例の計16例。

この内、日本の企業は2例で、残りは全て海外のブランド・企業です。

また、記事の最後には、これらの事例から得られたインサイトをまとめています。


広告キャンペーン(イメージビジュアル)

まず、広告キャンペーンでのユースケースを見ていきたいと思います。

おそらく、クリエイティブ面における生成AIのユースケースで一番多いのが広告キャンペーンです。

既に多くのブランドが生成AIを利用してビジュアルを制作していますが、その中でも昨年話題となったプロジェクトを中心に、6つの事例を紹介します。


VALENTINO(ヴァレンティノ)

出典:https://www.valentino.com/ja-jp/experience/maison-valentino-essentials

昨年1月、イタリアのラグジュアリーブランド「VALENTINO(ヴァレンティノ)」が、「MAISON VALENTINO ESSENTIALS(メゾン ヴァレンティノ エッセンシャル)」というメンズの新しいラインの広告ビジュアルに生成AIをとり入れました。

生成AIで生成したモデルと機械を、実際に撮影した製品の写真とPhotoshopで合成してイメージを作成したようです。

私の知る限り、ラグジュアリーブランドが生成AIをキャンペーンに取り入れた最初のケースです。


MONCLER GENIUS(モンクレール ジーニアス)

出典:https://maisonmeta.io/6765-2/

「VALENTINO」のキャンペーンの翌月2月、「Moncler Genius」がロンドン・ファッションウィーク中に生成AIを使用したキャンペーンをVogue RunwayやInstagram上で公開しました。

ニューヨークに拠点を置くAIクリエイティブエージェンシー「Maison Meta(メゾン メタ)」とのコラボレーションにより、ルックブック用のイメージを作成。

こうしたブランドのキャンペーンは、通常3~4ヶ月かけて制作するそうですが、「Maison Meta」によれば、制作期間を数週間程度にまで短くすることができたそうです。


CASABLANCA(カサブランカ)

フランスのブランド「CASABLANCA(カサブランカ)」が展開した2023SS(春夏)シーズンのキャンペーン。

こちらは日本のファッションメディアではあまり取り上げられていなかった印象ですが、海外のメディアでは話題となっていました。

チームはメキシコへの旅からインスピレーションを得て、シュルレアリスム感のあるイメージを制作。

実際にメキシコに撮影に行くことはなく、Midjourneyを使用して完成させたようです。

キャンペーンのアートディレクターを務めたSteve Grimes氏によると、実際のロケーションでの撮影は不要だったものの、人間のモデルに服を着せ、ポーズを取らせた状態で撮影することは必要だったようです。


Parco(パルコ)

こちらは、SNS等で目にしたという人も多いのではないでしょうか。
PARCOが昨年末頃に展開した「PARCO HAPPY HOLIDAYS キャンペーン」です。

“不思議な空間の中に住むモデルたちのハッピーホリデーズ”というコンセプトで、静止画のイメージに加え、動画も制作。

モデルから背景、動画に関してはナレーション、音楽まで全てAIによって生成されました。

言われなければ生成AIによるものだと分からないほどリアリティがあり、且つクオリティが高い仕上がりです。

PARCOの宣伝部の方の話によれば、かかった時間、労力、費用などの面においては、従来のキャンペーンとほとんど変わらなかったそうです。


VERSACE(ヴェルサーチェ)

昨年、イタリアのラグジュアリーブランド「Versace(ヴェルサーチェ)」は、“New Digital Artists”と題したキャンペーンを展開。

25人の生成AIクリエーターとコラボレーションし、同ブランドのアイコンバッグとして知られる「グレカ ゴッデス(Greca Goddess)」にフォーカスしたイメージを披露。

同コラボレーションを主導したインフルエンサー・エージェンシー「Billion Dollar Boy」によると、典型的なインフルエンサーマーケティングのエンゲージメント率は通常1~3%程度なのに対し、同キャンペーンでは平均で6%を記録。

また、AI生成による動画の再生回数は、スタンダードなコンテンツの再生回数を100%とした場合、1,460%を記録。

消費者がAI生成のコンテンツに対して、AIを使用していないコンテンツよりも高いエンゲージメントを示すことが確認されたようです。


MANGO(マンゴ)

出典:https://www.mangofashiongroup.com/en/w/mango-crea-la-primera-campaña-generada-con-inteligencia-artificial-para-su-línea-teen

「MANGO(マンゴ)」は、2024年7月、生成AIを活用した初めてのキャンペーン “Sunset Dream”を公開。

ブランドのプレスリリースによれば、プロジェクトは服を一つ一つ実際に撮影するところからスタート。

続いて、モデルの上に実物の服を配置し、イメージの作り方を生成AIモデルに学習させる作業を経て、イメージを生成。

その後、生成されたイメージの中からアートチームがベストなものを選び、リタッチと編集を加えるというプロセスを経たようです。

キャンペンイメージ内の背景とモデルは全てAIによって生成されています。


広告キャンペーンのユースケースについては以上です。

それぞれのケースに関する詳細な記事を読むと、現時点では、モデルや服・アクセサリーなどの一部は実際の撮影を行い、AIで生成したイメージとPhotoshopでコラージュするか、実際に撮影した画像を用いてImage to Imageで生成するのがベストではないかと感じました。

後者の場合は、生成AIとファッションデザイン(後編)で述べたようにAIに学習される可能性があるので、オプトアウトの選択ができるものを使用するのがマストでしょう。

また、生成画像に関しては、クオリティを追求するのであれば、何百回も生成を繰り返す必要があり、それだけ時間も要するということは認識しておくべきです。


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