モロッコ旅行記⑦ 5日目「カスバ街道をゆく」
カスバ街道をゆく
カスバ街道を通って、トドラ渓谷に向かい、サハラ砂漠のメルズーガ大砂丘を目指す。
オレンジマフィア爆誕!
6:30に起床するが、開いたばかりのレストランには、まだパンしか置かれていなかった。
もちろんパンだけでは足りないので、出発後、そこらのお店で軽い朝食をいただくことに。クレープのようなパリッとした生地に、はちみつをつけて食べる。運転手のオマルは、「イッセンマン」と呼んでいた。一千万??
モハさんと私は、前日の夕飯のときに、食卓からオレンジをパクってきてあったので、それも食す。
「俺たちはオレンジマフィアだ!」
オレンジマフィアの珍道中は、今日も続く。
地元の市場と歯ブラシ
ワルザザードから、トドラ渓谷までは3時間もかかるという。
トドラ渓谷で昼食をとらねばならないため、オマルさんは少し焦っている。それでも安全運転、快適運転。
途中、地元の市場に立ち寄り、モロッコの日用品を色々と見せてもらう。
写真は撮っていないが、途中、アッタウィア族という全身黒ずくめの衣装をまとった民族に出会った。
顔も黒い布で覆っているが、片目だけは布の間からさらしているのが特徴。
「フランス軍がモロッコから出ていったのは、アッタウィア族のおかげだよ」とモハさんが説明してくれた。
トドラ川を越え、カスバ街道へ
トドラ川を渡ると、がらりと雰囲気が変わる。
カスバ街道。
要塞建築「カスバ」が今も当たり前のように建ち並ぶ一帯だ。
丘の上に奇妙な形のカスバが建っているが、廃墟。
あの建物に関しては、モロッコ人には苦い思い出があるのだとか。詳しい話を覚えていないのだが、もともとは金持ちの家で、無理やり建設させられたというのだ。
「オアシスから水をくみ、丘の上まで運んだりと、大変な重労働だった」とモハさんは嘆いていた。
見えないオアシス
蛇行する川に沿って椰子が生え、緑の畑も広がっている。
モロッコでは、肉眼では水辺を確認できなくても、地中に地下水が流れているところも多く、そういうところは「プラメリー(椰子のオアシス)」と呼ばれている。
水があれば、必ずそこには椰子が生えている。椰子の根は10mほどまで伸びるらしく、そのため椰子が生えていれば、水辺がなくても地下に水があると分かるのだ。
背景に見えているのは、雪をかぶったアトラス山脈。
山の斜面に文字が書かれている。この文字自体の意味は聞かなかったが、あちこちにこうした文字が掲げられているという。意味は「西サハラはモロッコのもの」といったもの。
西サハラは、モロッコの南部に位置する砂漠地帯で、2011年現在、モロッコが実効支配をしているが、多数の国家がモロッコの領有を認めておらず、領土問題を抱えている。
ひときわ古い集落を歩く
途中、古い砦跡が車窓から見えた。ほとんど崩れ落ちて、かつての姿はもはや想像できない。
「古いカスバが建ち並ぶ場所に案内するよ」
モハさんの案内で、途中で車を降りて、村を歩いて抜ける。
崩れかけたカスバの脇を通り、裏手に回る。
裏手は崖っぷちになっていて、険しい岩場を慎重に下っていく。
断崖絶壁の先に、突如として広大な景色が広がった。見渡す景色は声を失うほどに美しい。
断崖の左手を振りかえると、ひときわ古いカスバ群が。
眼下を見下ろすと、一筋の河が見える。三人の女性が洗濯をしている。
相当な距離があったが、帰国してから撮った写真をアップにして見てみたら、女性たちが皆カメラ目線だったことに驚いた。
偶然か、本当にこちらに気づいていたのか。無断で申しわけない!
カスバとは「家」のこと
カスバは「要塞」という意味だが、じつは城壁に囲まれた「家」のこと。
ひとつのカスバに、一家族が暮らしている。
カスバの上部には模様が描かれており、ベルベル人の苗字や、「H」の形を崩した文字(自由の人、という意味)などが描かれている。日本で言う表札がわりだろうか?
テーブルマウンテンのような台地が、荒野に無言で佇んでいる。
車でしばらく行くと、モハさんが突然、「あそこに実家があるんだ」と下車。
双眼鏡を貸すと、「あ、妹たちが家を修理してるのが見える!」と大喜び。携帯電話で実家に電話をしながら、「今、双眼鏡で覗いてるよ。分かるかな。……あ、手を振ってる!」とひとしきり家族団らん。
この辺りが実家だという。新しい様式の家々も、日本人の目から見るとやはり味がある。
近くには古いカスバが。背後の絶壁と溶けこんでいる。
トドラ渓谷で昼食を
カスバ街道を後にしてしばらく車を走らせると、ついにトドラ渓谷が姿を現す。道中はあまり観光客を見かけなかったが、さすがにここには外国人が集まっていた。
絶壁にはロッククライミングをするための杭が打ってあるという。
プロにしか登れない場所もあり、難易度はかなり高い。時々、人が落ちることもあるらしい。
落ちれば助かる確率はゼロだとか。なんと恐ろしい……。
トドラ渓谷には、澄んだ湧き水が穏やかに流れている。
子どもが欲しい女性は、決められた曜日にここで水浴びをするとよいとされる。
渓谷の絶壁の下には、いくつかの建物が並んでいる。ここのレストラン兼ホテルで、昼食をとることになった。
日本人の観光客が比較的多いが、二人きりの客はさすがに私たちだけ。
モロッコ料理はどこも文句なく美味しい。
トドラ渓谷の脇手には、やはり古いカスバが残されていた。
アーモンドの白く可憐な花と、トドラの絶壁、崩れかけたカスバは、不思議なほどよく似合う。
次回予告
モロッコ旅行記⑧ 5日目「地下水路と砂漠の宿オーベルジュ」
カスバ街道、トドラ渓谷を越えて、オマルの四輪駆動はやがて広漠とした礫砂漠へと入っていく。
これから車は、地下水路を見学し、いよいよサハラ砂漠へと……。