AはBだ=AはCだ
創作をするにあたり、キャラクターがそのキャラクターたるゆえんについてずっと考えている。
たとえばわたしが「AはBだ」という価値観を持った人間だとする。
書き手がそうだからと言って、「AはCだ」と思うような価値観を持ったキャラクターに「AはBだ」と言わせてはいけない。
当たり前のことだ。
でも、これが意外と難しい。
何がどう難しいかと言うと、まずこの「AはBだ」という価値観が、差別や偏見というセンシティブな部分にかかわるものであった場合。
たとえば「AはCだ」とすると差別的な発言になる…と書き手のわたしが思ったときに、どうしてもキャラクターに「AはCだ」と言わせにくいジレンマが発生する。
でも、そのキャラクターの内在的な部分に「差別」が存在している可能性だって十二分にある。
そういう価値観のキャラクターなのだ、とわたしが納得して「AはCだ」と言わせなくてはならない。これがとても難しい。
だから、どうしても、わたしは作中で「言い訳」をそれとなく練り込んでしまうことが多い。
AはCだって○○ちゃんは言うけど俺はそうは思わないな…、みたいな反対の立場のキャラクターを登場させてしまいがちだし。
何なら、「AはCだ」と主張するキャラクター本人に、「なんか世間ではAはBだっつーけど、俺はCだと思うんだよな」みたいな言い訳をさせる。
暴挙である。
恋愛小説を書くと、特に男女差別やセクシャルマイノリティー、その辺の価値観の壁に当たりやすい。
最近一番悩んだのは、男キャラがワンナイトする際に「お持ち帰り」という言葉を使うこと。
女性をお持ち帰りする、という単語は、個人的には女をモノ扱いしている気がして最近あまり使わなくなった。
女だって男をお持ち帰りすることがあるのだけど、それは置いておく。
つまり、人間を持ち帰るな、持ち帰るのは仕事だけにしろ、いや仕事も持ち帰るな。
でも、このキャラは、チャラチャラしていて女性に対してタガが緩く、ヤれるときにヤりたい、みたいな価値観を持っている。
だから、わたしは結局悩んで、お持ち帰りという単語の修正をやめた。
ここでこいつが即物的な単語を吐かずに遠回しなニュアンスで行きずりの夜を表現したら、なんか変じゃん? と思った次第だ。
ただ、女性のことをとても大切にする男なので、お持ち帰りという単語は使わせたけど、基本的に合意のセックスしかしないのでそこはご理解いただきたい。(?)
新刊のヒーローです。(?)
価値観はアップデートされていく。
なので、わたしは十年前に自分が何気なく書いた話をもう直視できないし、また十年後同じことが起こるだろうなあとは思う。
文章の巧拙ではなく、価値観の齟齬に、違和感を覚えてしまうのだ。
この文章をもっとこう修正したいなんてのは一年前の作品でも出てくるけど、十年単位になると、この設定をもっとこう修正したい、と歴史修正主義者になってしまうのだ。(?)
なので、読者の皆さんにご理解いただきたいのは、たとえキャラクターがトンデモな差別発言をしていたとしても、それがわたしの価値観であるとは限らないということだ。
もちろん、わたしとこれを読んでいるあなたの価値観も違うので、わたしが差別と思わぬことをあなたは差別と思うかもしれないし、逆があるかもしれない。
なので、百パーセント相互理解をするのは不可能だ。
というのを前提に、つまりキャラの言葉がわたしの言葉ではない、ということをご理解いただきたい。
わたしがどう思っていようとキャラは好き勝手にいろいろ言うし、やるし、わたしの意に沿わないことを言うし、やる。
なので、キャラの価値観に納得したからわたしとも気が合う! とか、その逆! とかはあんまり当てはまらないと思ってほしい。
というか、どうかキャラの多様性という意味では、そうであってほしい。
わたしは登場人物になってはいけないので、なるべく存在を消したい。
どのキャラも、少しわたしで全然わたしじゃない状態にしたい。
難しい話だけど、とても大事なことなので、秋の夜長にぽちぽちと打つ。
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