金言234:印刷物の校正

中学校の教科書に大量の誤字脱字が報道されたことがありました。
印刷工程の変化が影響しているのかもしれません。少し前までは(20年以上前かもしれません)、印刷屋さんに依頼する業務用のカラー印刷物(カタログやチラシ)のオフセット印刷は、印刷前に必ず何回か内容を再確認できる工程がありました。

1.昔の校正方法
コンピュータ製版が普及する前は、次のような作業を繰り返していました。

1)指定原稿
まず、注文者からの手書き原稿(元原稿)を指定の紙面にレイアウトします。デザイナーが文字の大きさ、書体などを決め、手書きのラフができます。注文者は、この段階で基本的なデザイン、レイアウトを確認します。コピーライタの作った宣伝コピーが原稿に加わることがありますので、元原稿と比較して内容の確認もしなければなりません。この作業によって指定原稿ができあがります。

2)版下校正
この指定原稿をもとに写植屋さんのオペレータが版下原稿を作成します。ここで、注文者とデザイナーは版下原稿の校正をします。版下の手直しは、写植の貼り替えなど手作業もありますが、トータルの印刷コストのなかでは、比重が小さいので、大胆な変更も可能です。十分校正を繰り返し、誤植を完全になくして、製版に進みます。

ここでの校正で大事なことは、最後に必ず元原稿と比較して校正をすることです。何度も原点に戻って確認をします。版下校正は複数回繰り返されると、チェックするところは、一つ前の段階の赤字修正箇所だけになります。そうすると、修正を繰り返している間に直近の修正箇所だけに気をとられ、2つ3つ前のすでに修正済みの箇所が手違いで修正前に戻ってしまったり、修正箇所以外が誤って変更されてしまったりすることがあります。
これは、何回か修羅場をくぐらないと怖さがわかりませんが、こういう想定外の人為的なミスが命取りになります。

3)校正刷り
完全版下原稿は、次に製版屋さんにまわります。ここで、印刷用のフィルムを作成し、本番で印刷する前の、校正刷りができます。数枚しか印刷しないので、手作業みたいなものです。この校正刷りを色校正紙といい、文字・デザイン・カラーなどを注文者、デザイナー、コピーライタなどが校正します。この段階で、写真などのカラー原稿を差し替えたりデザイン変更したりすると、4版やり直しとなり、かなりのコスト増となります。文字の修正は墨1版だけですむ場合が多いので変更はよくあります。
指定した色が出ないときなどは色校正を2~3回繰り返すこともあります、通常、文字の修正だけなら、費用のかかる色校正ではなく、青焼きとかフィルムで校正の確認をします。この校正が終わると、校了または責了となり、印刷が始まります。

4)刷りだし
大量の印刷のときは、刷りだしといって、本番で印刷したものを真っ先に工場からサンプルとして持ち出して、最終確認します。印刷物が製本するものだったら(たとえば教科書とか)もし一部誤りを製本工程前に発見した場合は、そのページにからむ台(8ページとか16ページ分とか)だけに損害を留めることができ、全量を再印刷しないですみます。

長くなりましたが、だいたい4つの段階で、致命的なミスの発生を防ぐことが可能です。致命的なミスとは、納品後ユーザからミスを指摘されることです。

2.現在の校正方法
20年以上前からすでに行われているかもしれませんが、注文者からの原稿(元原稿)は、電子データ(電子的方式・磁気的方式など人の知覚によって認識できない方式でつくられる記録)で制作サイドに渡されています。

1)指定原稿
写植屋さんの仕事はなくなり、文字原稿は、元原稿を印刷ソフトにインポートして制作されます。文字の打ち間違えなど写植屋さんの人為的なミスは存在しません。文字原稿は、オリジナルのデータをインポートしているので、変換ミスは減ります。

2)版下原稿
版下がありませんので、この工程での校正作業はありません。

3)校正刷り
注文者は、印刷ソフトのデータをプリントアウトしたもの、または印刷データをパソコンに表示させて画面で校正をします。修正は、PDFに書き込むか、出力紙に赤字を入れるかで、校正作業が終わります。

4)刷りだし
担当者次第の作業です。

3.比較

昔は、写植が台紙から剥がれ落ちれば脱字となりました。だから版下は宝物のように大切に取り扱いました。高価なものというよりは、壊すと取り返しがつかない、扱い方によっては爆弾のように危険なものでした。
アナログの世界でしたので、多くの人の手が加わる職人仕事でした。したがって、複数のプロのアナログ確認の工程を通じて、大半の致命的なミスが未然に防止できたわけです。

今は、注文者は、印刷屋さんと同じ印刷ソフトを使ってリアルタイムで校正ができますので、作業効率は非常に高くなりました。反面、電子データのやり取りなので、エンターボタンの一押しで引き返せないところまで、一瞬に行ってしまいます。

ありえない人為的ミスである教科書の誤字脱字は、おそらく、コスト削減、成果主義とか若手登用とかいって、職人の暗黙知を理解しないアマチュアの半端な仕事にまちがいないと、推定します。

4.ではどうするの

間違いを発見したら、すぐ直せる環境を利用するべきです。ウェブサイトでの表示では、間違いはすぐ修正できます、変更は瞬時に反映できます。
こういうデジタルな世界を有効に活用することができるはずです。

教科書も、電子化したらいかがですか。インターネットから最新版をダウンロードして教材とし、教室でスクリーンに映したものを、児童や生徒は家庭のパソコンで再利用し、また復習・予習ができれば、修正できないアナログ教科書が不要になります。
まず試し、何度も修正しながら繰り返すことが、デジタル社会では、早く上達する王道です。

ただし、昨今の高度な政治的判断をする業界では、公表された文書に不備があったわけではなく、内容に問題があって説明責任を追求されたときの言い訳に、原稿に間違いがあったとされます。
こういわれたら制作スタッフは校正のしようがありません。

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平史理 taira fumitoshi
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