【2024 高校野球】センバツ打力ランキング
いよいよ今日から開幕する2024年のセンバツ高校野球。
筆者は例年、開幕前に出場校の秋の成績データを分析している。
前回は出場校の投手データを紹介させていただいた。
今回は打力編ということで、各校の打撃データを分析していこうと思う。
データ分析で大切なのは、成績の良し悪しよりも「そのデータから何を読み解くか」という点である。
よって分析者の咀嚼力によって導き出される答えは異なってくるという事をご了承願いたい。
まず今大会の展望を予測するにあたって、
・長打力
・打撃技術
・選球眼
・機動力
上記4項目から各校の打線を分析してみたい。
強力打線の定義とは?
強力打線とは何か?
を考える上で、どうしても切り離せないのは
「打線の破壊力」である。
数年前ある大学から
野球において
勝敗に最も影響を与えるのは「長打率」である
という論文が発表された。
これは長いシーズンを戦うプロ野球のデータをソースにした分析である。
ただ近年の高校野球においても
甲子園で勝ち上がるには
一定以上の長打力が必要
と認識されている高校野球ファンは多いのではないだろうか。
筆者も当然その1人である。
通常、野球のデータ分析において長打力は
「長打率」という指標で扱われる。
ここで注意いただきたいのは、データ分析で用いられる長打率とは「長打を打つ確率ではない」という点である。
ホームランは4塁打、二塁打は2塁打として算出する。つまりホームランは二塁打の2倍の価値というわけだ。
今回は「打撃総合指標」であるOPSランキングも紹介するが、高校野球においては地方大会の試合データの少なさから、「OPSランキング」と「長打率ランキング」はどうしても似たような結果となってしまう。
その為、まずは「1試合平均の長打数」で長打力の分析を始めたい。
1試合平均長打数トップ5
1 関東一 3.73
2 大阪桐蔭 3.41
3 神村学園 3.25
4 宇治山田商 3.18
5 健大高崎 3.11
5 明豊 3.11
上記6校はデータ上「破壊力のある打線」と言えるのでは無いだろうか。
中でも関東一と大阪桐蔭は、レベルの高い明治神宮大会まで出場した上での数字であるということを踏まえると、その破壊力には信憑性があると言えるだろう。
打撃総合成績
とは言え「長打力だけが野球ではない」
これもまた事実である。
冒頭の「強力打線とは何か?」という問いに戻る。
野球はどれだけ強いチームでも試合終了時、27個のアウトを取られている。(コールドおよび後攻の場合は別だが)
つまり野球という競技は
27個アウトを取られる前に
相手より多くの得点を奪うこと
というのがゲームの本質となる。
ゆえに
「どれだけアウトを取りにくい打線か?」
これがチームとして機能する打線、つまり「強力打線」と言えるのではないかと筆者は考える。
セイバーメトリクス分析では、この問題を考えるにあたってOPSという指標が用いられる。
これは「出塁率+長打率」で算出される。
今大会出場校のOPSランキングは下記の通り。
OPSランキング トップ10
1 神村学園 1.020
2 豊川 0.999
3 健大高崎 0.997
4 関東一 0.991
5 愛工大名電 0.961
6 東海大福岡 0.942
7 明豊 0.929
8 広陵 0.915
9 宇治山田商 0.911
10 中央学院 0.891
高校野球の地方大会において個人的にはOPSが0.900を越える打線は相手投手から見て
「アウトを取るのに苦労する打線」
と言えるのではないかと考えている。
中でも昨夏の甲子園ベスト4メンバーの正林、上川床らが並ぶ神村学園、大会注目の強打者モイセエフ・ニキータが引っ張る豊川の打線は秋の大会で出色の成績を残したと言えるだろう。
ただ注意が必要なのは、今大会の優勝候補とも言われている星稜や作新学院がここに入っていない点だ。
両校の打撃レベルは低いわけではなく、むしろ上位に位置するだろう。
ランク外なのは明治神宮大会の決勝まで勝ち進む中で、多くの好投手と対戦してきたことに起因すると考える必要がある。
ただ今大会は長打力やOPSだけを見てチームの得点力を推測するわけにいかない事情がある。
それが「新基準バットの導入」である。
新基準バット
新基準バットに関する記事でも書いたが、センバツにおいて過去に長打が大幅に減った大会が過去に2度あった。
それが
・1992年ラッキーゾーン撤去
・2002年バットの重量制限
である。
1992年は本塁打が前年の19→7本
2002年の本塁打は前年の21→14本
と大幅に減少した。
新基準バットについての記事はこちら
今大会も同様に長打が大幅に減少する大会になるのはほぼ間違いない、とみる。
そうなると無駄なボール球に手を出さず四死球を選べる選球眼、そして走者をうまく進める機動力が打線の大きな武器になってくるはずだ。
選球眼
セイバーメトリクスでは選球眼を表す指標としてBB/Kがよく用いられる。
BB/Kは四死球数を三振数を割った値。
つまり
四死球が多い+三振が少ない=選球眼が良い
という考え方である。
BB/Kランキング トップ5
1 神村学園 3.28
2 関東一 2.48
3 健大高崎 2.05
4 報徳学園 1.86
5 中央学院 1.82
6 常総学院 1.70
7 敦賀気比 1.65
8 豊川 1.53
9 大阪桐蔭 1.51
10 明豊 1.33
上記から神村学園、関東一、健大高崎などはデータから推測すると新基準バットでも上手く攻撃をしかけられるイメージが湧いてくる。
ここでは報徳学園の数字に注目したい。
後ほど解説するが報徳学園の秋の打撃成績は出場校の中でも下位にランクしている。
それでもセンバツ出場を勝ち取ったのは間木、今朝丸のWエースの力だけではなく、打者の選球眼でボール球に手を出さなかったことも大きな要因だったと言えるだろう。
機動力
そして最後に
「どのようにして走者を先の塁に進めるか」
に注目したい。
ここでは1試合平均の盗塁・犠打数のトップとワーストを紹介する。
その理由は機動力は数字の優劣で判断するのではなく、チームの攻撃の傾向を把握するに止めるべきだからだ。
バントが多いから強い、少ないから弱いとはならない。これらは選手の能力よりも監督の個性が反映される数字として認識しておきたい。
1試合平均盗塁数 トップ5
1 山梨学院 3.67
2 中央学院 3.23
3 健大高崎 2.89
4 京都外大西 2.80
5 明豊 2.78
1試合平均盗塁数 ワースト5
1 青森山田 0.40
2 北海 0.63
3 近江 0.67
4 日本航空石川 0.75
5 田辺 0.86
1試合平均犠打数 トップ5
1 宇治山田商 4.36
2 敦賀気比 3.44
3 青森山田 3.40
4 京都外大西 3.40
5 近江 3.33
1試合平均犠打数 ワースト5
1 作新学院 0.73
2 阿南光 1.13
3 京都国際 1.50
4 別海 1.67
5 広陵 1.67
上記から読み取れるチームの特色として
・作新学院はバントをほとんど使わない
・青森山田、近江は基本バントで走者を進める
・山梨学院、中央学院は積極的に盗塁をしかける
といった傾向が伺える。
また最近は、かつて「機動破壊」と異名をとった健大高崎の機動力野球が「打撃中心にモデルチェンジした」と語る専門家もいるが、データから考える限り積極的に足を使う傾向はまだ健在である点にも触れておきたい。
新基準バット元年となる今年のセンバツ。
機動力が試合にどのように影響を与えるかと言う点にも注目したい。
打力に不安を抱えるチーム
打力に不安を抱えるチームはどこか?
データ分析をする上で、この視点から考えるのも重要である。
OPS ワースト5(打撃総合)
1 田辺 0.631
2 別海 0.633
3 耐久 0.714
4 報徳学園 0.723
5 京都外大西 0.735
BB/Kワースト5(選球眼)
1 京都外大西 0.57
2 田辺 0.57
3 阿南光 0.63
4 近江 0.71
5 耐久 0.74
1試合平均長打数ワースト(長打力)
1 創志学園 1.64
2 京都国際 1.70
3 田辺 1.72
4 八戸学院光星 1.89
5 報徳学園 2.00
上記のチームは残念ながら、秋の地方大会で打線が苦しんだと言えるだろう。
ただしここでノミネートされたチームは、決して「打撃レベルが劣る」というわけではないということはご理解いただきたい。
例えばOPSをはじめワーストには近畿勢の名前が並ぶが、これは逆に言うと「近畿勢に好投手が多い」ということの裏返しとも言えるのだ。
さらに付け加えるなら、これらのチームは打線に問題を抱えながらも勝ち進んできたという事実がある。
それは投手力や守備力かもしれないし、メンタルや粘り強さといった数値化できないファクターかもしれない。
冒頭でもお伝えしたが、重要なのは
「データから何を読み解くか」である。
秋の失敗は春への伸びしろ
長年高校野球のデータ分析をしてきた中で、
筆者は心からそう感じている。
失敗と書いて「せいちょう」と読む
これは野村克也氏が良く語っていた名言だが、高校球児にとって最も当てはまる言葉なのではないだろうか。
創設100周年となる2024年のセンバツ高校野球。
選手たちはいったいどのような成長を私たちに見せてくれるのか。
予想を遥かに越えた球児たちの成長
その結果、自分のデータ分析予想が
ことごとく外れていく
私はそれが楽しみでたまらない。
甲子園ラボ