
2023センバツ出場校データをセイバーメトリクスで戦力分析 打力編
2023年のセンバツ高校野球。
甲子園出場校の野手データを「セイバーメトリクス」で分析してみた。
セイバーメトリクスとは?
まず初めに申し上げておくと、セイバーメトリクスはあくまで1つの指標であり、それがそのままチーム力と置き換えられるわけではない。
対戦相手のレベルも試合数も各地域で異なる「高校野球」では特にそう言えるだろう。
ただ高校野球では
「あの高校は良く打つ」
「あの高校はピッチャーが良い」
「あの高校は強い」
とイメージ論で戦力を語られる事が多いのが事実だ。
実際に対峙した際に相手から受ける威圧感、雰囲気、そして緊張といった様々な要素が結果に影響する。
高校生であればなおさらである。
だが
「どういう風に強いの?」
という問いに回答するには、例え実際に結果が異なったとしても、データから回答を出すのが最も説得力があるのは間違いない。
なぜならデータを元に分析する事で、強い弱いは判断できなくても「各校の戦い方の傾向」はある程度掴めるからだ。
打線総合(OPS)
セイバーメトリクスでは「OPS」が打線の総合指標として用いられる。
OPSとは簡単に言うと「出塁率+長打率」で求められる。
ここから分かるのは
「アウトになりにくさ、そして効率よく進塁を稼ぐ力」である。
今大会出場校のトップ10は下記の通り。
OPSトップ10
1 履正社(大阪)1.088
2 慶応(神奈川)1.087
3 龍谷大平安(京都)1.010
4 作新学院(栃木)0.983
5 二松学舎大付(東京)0.967
6 沖縄尚学(沖縄)0.966
7 山梨学院(山梨)0.964
8 報徳学園(兵庫)0.937
9 智辯和歌山(和歌山)0.925
10 広陵(広島)0.924
一般的にOPSは平均が0.750で、0.900を越えると相当優秀と言われている。
各地区のレベル、対戦相手が異なる点を考慮せず考えると、上記のチームは今大会においては「打撃レベルが高い」と言えるだろう。
特に1位の履正社は秋の大阪大会で、3回戦から大商大堺、関大北陽、興国、近大付、箕面学園と強豪校との対戦が多かった中での結果である点を加味すると素晴らしい成績と言えるだろう。
逆に慶応は秋の神奈川大会1~3回戦の3試合で77得点。対戦相手のレベルを考えると、この3試合を含んだ成績は過大評価とも考えられる。ただ関東大会でも打線は強力であったという点は補足しておきたい。
また優勝候補の大阪桐蔭がランク外なのは意外ではあるが、OPSは0.915で11位となっている。明治神宮大会の決勝までハイレベルな投手との対戦が続いた点を踏まえると、素晴らしい成績である。
昨年のセンバツでは秋のOPSランキングで1位だった大阪桐蔭がセンバツでも猛打を見せつけて優勝。
「春は投手力」と昔から言われているが、現代野球においてはセンバツでも打力の重要性が増しているのは間違いないだろう。
選球眼(BB/K)
筆者が高校野球の試合展開を考える際に、最も注視するのは「選球眼」である。
ボール球に手を出すかどうかが結果に大きく影響するからだ。逆の視点で考えると「ボール球を見逃す事が得意なチーム」を相手にすると「コントロールに不安のある投手」は、どれだけ球威があっても本来の力を発揮出来ず自滅するケースが考えられる。
その選球眼を測るため、BB/Kという指標をもとに考えるようにしている。
このBB/Kという指標から分かるのは
「ボール球に手を出す三振」が少ないチーム
これが一般的に言われる「選球眼」をデータ化したものと考えて良いだろう。
BB/Kトップ10
1 氷見(富山)2.81
2 龍谷大平安(京都)2.52
3 高知(高知)2.13
4 広陵(広島)2.06
5 二松学舎大付(東京)1.94
6 山梨学院(山梨)1.91
7 彦根総合(滋賀)1.63
8 英明(香川)1.61
9 大阪桐蔭(大阪)1.60
9 敦賀気比(福井)1.60
ここで注目したいのは氷見。
強豪校の名前が並ぶ中での1位は意外でもある。
21世紀枠での選出になるが秋は富山大会で優勝し、北信越大会でも遊学館(石川)を破っている。特に富山大会では高い得点力を見せつけて圧勝続きだった点にも触れておきたい。
その原動力となったエース青野の投球とともに、データから推し量ると選球眼が勝利の要因の1つであるのは間違いない。
センバツではレベルの高い投手が相手となるが、秋と同様にボール球を見極めて甘い球を狙っていきたいところだ。
長打力(長打率)
現代の高校野球で勝ち進むためにはどうしても長打力が必要となっている。
長打力を測るには単純に長打率で見てみる。
ただここで言う長打率とは単純に「長打を打つ確率」ではない。
セイバーメトリクス分析では「塁打を打席で割った数値」を元に考える。つまり本塁打は4で計上し、2塁打は2で計上される。
本塁打は2塁打よりも価値があるという考えだ。
長打率トップ10
1 慶応(神奈川).635(12試合15本塁打)
1 履正社(大阪).635
3 作新学院(栃木).551
4 山梨学院(山梨).545
4 龍谷大平安(京都).545
6 二松学舎大付(東京).538
7 報徳学園(兵庫).529
8 沖縄尚学(沖縄).527
9 智辯和歌山(和歌山).503(6試合7本塁打)
10 専大松戸(千葉).501
上記のチームは今大会出場校の中でも「破壊力のある打線」と言えるだろう。
ここで注目したいのが智辯和歌山と大阪桐蔭。
智辯和歌山は長打率で9位と目立つ数字ではないが、6試合で本塁打が7本。近畿大会で見せた破壊力を考えると、実質の「遠くへ飛ばす力」では1位と言っても過言ではないだろう。
そして意外とここでも大阪桐蔭の名前が出てこない(12位)。
ただ1試合平均長打数で考えると大阪桐蔭は4位にランクされる。この順位の乖離は大阪桐蔭の長打は本塁打が少なく二塁打が多いことを意味している。
智辯和歌山が「外野手の頭を超える長打」であるのに対し、大阪桐蔭は「外野手の間を抜く長打」というイメージがデータからうかがえる。
打力に不安を残すチームは?
これらの指標を逆に見ることで、秋に打線が活躍出来なかった高校、つまり「打力に不安があるチームはどこか?」という分析もできる。
各項目のワースト5は下記の通り。
OPSワースト
1 社(兵庫).663
2 敦賀気比(福井).677
3 光(山口).687
4 北陸(福井).712
5 東北(宮城).713
BB/Kワースト
1 社(兵庫)0.49
2 海星(長崎)0.65
3 東北(宮城)0.67
4 健大高崎(群馬)0.75
5 北陸(福井)0.89
長打率ワースト
1 敦賀気比(福井).314
2 光(山口).338
3 社(兵庫).342
4 高知(高知).371
5 英明(香川).373
上記のチームはやや打力に不安が残ると言えるだろう。
しかし忘れてはいけないのは「打線は活躍したとは言えないものの、秋の大会で勝ち進んだ」という事実である。
例えば強豪である敦賀気比は意外な事にOPS・長打率でワースト5にランクしている。しかし秋の1試合平均エラー数が1位(0.14個)、そして1試合平均四死球が3位(6.6個)と打撃指標以外の部分で強みを発揮しているチームと言えるだろう。
つまり打力を補う何か別の要素があったから勝ち進んでいるわけである。それは投手力・守備力であったり、接戦を勝ち抜く精神的な強さであったりする。
よって上記の高校が能力に劣るというわけではない点は、くれぐれもご理解いただきたい。
データ分析で重要なのは「データ上の優劣」ではなく、あくまで「そのデータから何が読み取れるのか」という事である。
そして各校、地方大会のデータから反省点を見つけ出し、改善して成長した姿を甲子園で披露する。
その結果、私の想像をはるかに超えた活躍する選手が現れる。
特にセンバツは秋季大会から約半年準備期間がある。各校は当然ながら、ウィークポイントを把握しているはずだ。
そして秋に見つかった課題を冬の間に修正してくるだろう。
「秋からチームがどれぐらい成長しているか」
それこそがセンバツの最大の見どころである。
「予想がことごとく外れてしまう」
皮肉にも高校野球のデータ分析をする上で、それが私にとって最大の喜びでもあるのです。
甲子園ラボ