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海外サマーインターン①応募

私にとって最初の海外での就職活動は、MBAが始まる1カ月前に、香港での投資銀行巡りに参加したことだった。2日間で、主要な投資銀行の香港オフィスを訪問した。2年制のMBAでは、1年目は学業に集中し、2年目から就活をする。INSEADは1年制なので、入学した途端、就活もしないといけない。中でも投資銀行は、サマー・インターンの応募が一月から始まる。INSEADの授業開始と同時期だ。そこで希望者のみ、入学前の1月から2月に投資銀行を回るトレックが学校主催で組まれた。

ある投資銀行の説明会で、「この中で投資銀行出身の人」とプレゼンターが聞いた。参加者の3分の1が手を上げた。「では、コンサルティング出身の人」また3分の1が手を上げた。彼らを確認しながら、プレゼンターは「君たちはまっとうな仕事をしてきたと言えるね」と言った。

私は彼の言葉にぎょっとした。わかってはいたものの、メーカー出身者は投資銀行では門前払い、ということなのだ。私は、投資銀行やコンサルティングのような激務を経験したことはなかった。そして、彼らの認識も正しい。トヨタで商品企画の仕事をしていた、と言えばかっこいいものの、あまり創造的な仕事ではなく、トヨタの完璧といえるほど完成した「型」にのっとった仕事だった。プロジェクトマネージメントと言っても、日本人にしては得意な英語を使って、海外市場と日本の技術部の間をつないで、社内調整をしてきただけ、とも言えた。私には学ぶこともあったが、おそらく投資銀行やコンサルティング会社から見れば、ぬるい環境ということになるのだ。自分の経歴や実力が、投資銀行の人にとっては、取るに足らないものであること。英語にハンデがあること。これらを考慮すると、投資銀行でサマー・インターンの内定をもらうのは天文学的に低い確率であると感じた。

しかしながら、投資銀行トレッキングに参加し、一月からクラスメイトになる20人の参加者と早くから知り合えたことは、有意義だった。香港ベースのツアーだったのでアジア系の学生が多く、入学後も親しく付き合う友人ができた。そのうちの1人は、中国系アメリカ人の女の子で、投資銀行トレックが終わった後も香港に残り、一緒に観光を楽しんだ。そして、私が「英語で就職活動をしたことがない、レジュメに添付するカバーレターも書いたことがない」と言うと、最初のカバーレターの執筆を助けてくれた。

カバーレターを書くのは、慣れると楽しい作業だった。コツは、なぜその会社に興味を持っているかを書くこと。まずその企業に惹かれている理由を書き、なぜ自分の強みやそれまでの経験がその企業でも活かせるか、という流れで書く。自分の強みはレジュメに書いているので、カバーレターはレジュメを読んでもらうための入り口。企業側に、「本当に私は御社に興味がありますよ」、とアピールするために、本気度を示す必要がある。そのためには、その会社のウェブサイトを読み、可能であれば説明会やOB・OG訪問で話を聞き、それを通して感じたことなどを書いた方が良い。自分の強みはなるべく短くインパクトのある表現で。会社説明会などで紹介されたプロジェクトで、自分のスキルが活かせそうだ、と思うものがあれば、そういうプロジェクトに関わりたい、と書くのもカバーレターで使えるアピール方法の一つ。

INSEADに復学した時、夫(日系企業からのベルギー駐在)から海外就職に向けて頑張って欲しい、と言われた。MBAの学費も夫と両親が出してくれた。「日本にだけは帰りたくない。どこでもいいから海外で就職してくれたら、自分もそこに行く。」と言っていた。本当に夫が海外であれば、私について来てくるとは思えなかった。それでも、「とりあえず、100社受けてみる。それでもダメなら一緒に日本に帰ろう」と約束した。

就職活動なんてモチベーションが上がらないのが普通だ。周りより下手な英語、しかもメーカー出身。人見知りの性格。100社どころか、1社も受けたくない。説明会に参加して、企業から派遣されている人と話したりしても、「サラリーマンなんて多かれ少なかれ同じだろう」と本音では思ってしまう。レジュメやカバーレターを応募企業にあわせて微調整したりするのは、わずらわしい作業だ。「今は景気が悪いから、ヨーロッパ人にとっても就職は大変。日本人の自分には絶対無理」とか「何社応募しても面接にさえよばれないなら、時間の無駄」といった言葉が頭に浮かんでくる。

でも、山里亮太が、「できない」というのは冷静な分析なんかではなく、わずらわしい作業から逃れる簡単で恐ろしい言葉だ、と書いていた。

投資銀行やコンサルは敷居が高いが、エントリーした。内定という「結果」ではなく、100社エントリーという「行動」を目標にした。100社エントリーさえすれば夫が一緒に日本に帰って就職してくれる、と思うと心安らかに応募できた。そうすることで考えてもしょうがない悩みに時間を無駄にすることが減った。とりあえず動き、サボってしまう時間を減らした。何をすれば良いのかよくわからないからこそ、止まっていないという事実が大事だった。



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