妻の希望を全部叶えた患者さんのこと

看取りの段階に入ったSさん。

私が休んでいる日に死亡退院していた。

今までだったら、死亡退院した患者さんが、後日話題になることはなかったが、Sさんは違った。

こちらが質問したわけではないのに、先輩方がいろいろと話してくれた。

本当に奥さんのことを思っていたこと。

愛があふれる、うらやましい夫婦だということ。

奥さんが口にしていた「桜が咲く頃の、雨じゃない、できれば晴れた日の朝、自分が駆けつけられるときに、駆けつけるまで待っていてほしい」という希望を全部叶えたということ。

奥さんが一緒にエンゼルケアに入ったということ。

顔には濃いめの色のファンデーションを塗って、はっきりした青の、ハイビスカス柄のアロハシャツを着て退院されたこと。

休み明けの出勤で、Sさんのベッドに誰もいなくなっていたことに動揺してしまったけれど、皆さんがいろいろと話してくれたことで落ちついて、いい退院だったんだなと思え、救われた気がした。