和室の空気を吸いに

母校のかるたサークルの20周年記念誌に寄稿した記事を久しぶりに目にしたら思いのほか今読んでもよかったので、ここにもUPすることにした。

「和室の空気を吸いに」
「なぜあのころ君は毎日のように和室へ通っていたのか?」と問われたら、私はそう答えるしかない。かるたが強くなりたいという面ももちろんあったが、あの居心地の良い和室に行きたくて行きたく仕方がなかった。
 将来名人になるような先輩がいた。一人取りを一日で数回するような同期がいた。飄々としたアグレッシブな後輩がいた。和室扉を開ければそこには様々な先輩、同期、後輩、ゲストとともに、かるたに対する熱い思いや他愛もないおしゃべりが広がっていた。職域の上位常連であったり、徹かるが開催されたり、インシスターズというエアバンドが結成されたりしていたのもこの雰囲気のおかげだろう。そういえばシム子という人物が誕生したのもこの空気のおかげで間違いない。
 いつ頃からだっただろうか?和室の空気を吸うのが辛くなってきたのは。先輩、同期、後輩が作り出していた心地の良い空間がある時からそうではなくなった。卒業する先輩、来なくなる同期、新しく入会してくる後輩。和室の空気の構成要素は毎年毎年入れ替わる。変わりゆく和室の空気。そんな変化に徐々に私はついていけなくなった。研究室が忙しくなった。後輩と接する機会が減った。大会で勝てなくて焦りが積もった。和室の空気が変わるとともに、私自身も徐々に変わっていった。これらの変化によって、両者の間には溝が出来てしまった。こうして私は「空気を吸いに」和室へは行かなくなった。かるたを始めたあの頃とは違って、ただただかるたを強くなるためへ。しかしながらそれもうまく結果を出せなかったが……。
 京都大学で、ぼいらぁという組織で、あの共用和室で (北部和室も)、 居心地が良い素敵な時間を過ごせたのは今振り返っても自分にとって大きな財産だ。あの時得られた大きな財産を、ただただ遺産として食いつぶすのではなく糧にして、もっと大きく、もっと深く、もっと美しいものにできるように試行錯誤していきたい。京都大学かるた会、20周年おめでとうございます。会の今後の発展を願うとともに、その発展に負けないように自分の歩みを進めていこうと思う。

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