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小説(ショートショート)まとめ

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1000〜2000字ほどの短めの小説(ショートショート)。スキを多く頂いたり、そうじゃなくても個人的に読んでみてほしいもの集めてます。
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記事一覧

【短編小説】カニ食い夜行

空一面に雲がかかり、夜空には星も月もない。 夜雲の下には、山のかたちの真黒なかたまりがい…

【短編小説】灯油5.0

良太は母の言葉を疑い、思わず「えっ」と聞きなおした。 「だからね、灯油、入れてきてくれな…

【短編小説】水棲作家

銀板写真のように仄暗い海底で、男は目覚めた。 遠く頭上には、青黒い海面と白い光が揺らいで…

【短編小説】わたしの間の悪い夫

わたしの間の悪い夫が死んだ。 夫の間の悪さったらなかった。 40年勤めた会社を定年退職する…

【短編小説】雨のやまない村

旅人がその村にたどり着いたとき、しとしとと雨が降っていた。 宿をみつけて数泊分の銀貨を渡…

【小説】未来からネコがきた

未来からネコがきた。ネコ型ロボットではなくネコがきた。 「僕は未来からきたネコだ。しばら…

【小説】たこを食べる

信じられないかもしれないけど、わたし、19歳になるまでたこを見たことがなかったの。 ええ、食べ物のたこ。本当に知らなかったのよ。 わたしね、けっこういいところのお嬢さまだったの。松濤の大きなおうちに生まれて、箱入り娘だったわけよ。世間のこと何も知らない。電車の乗り方も分からなかった。それにしても、ずっとたこに出会わなかったのは奇跡だよね。 たこを知らない人間がさ、大人になってはじめてそれを見たときの衝撃、想像できる? 19のとき、お母さまに連れられて、とある実業家さんの

【短編小説】CapsLockキーの憂鬱

CapsLockキーは、自分の生まれた意味がずっと分からなかった。 キーたちが身を置くノートパソ…

【小説】遺書を印刷する

俺が販売員をしているプリンター売り場に、背の小さな白髪のおじいさんがゆっくりと入ってきた…

【小説】パワハラ上司、ダメ社員になる

部下を持つすべてのひとへ。 ある朝、目を覚ますと自分の部下になっていた。 * 見慣れない…

【短編小説】ヤドカリの欲望

人がファッションで自己を表現するように、ヤドカリもまた、背負う貝殻で自分を伝えようとする…

【短編小説】涙くんと涙ちゃん

「見ててな」 藤野は上目で俺を見ながら、人差し指で自分の目頭を差した。そこから、ツー、と…

【小説】父のお酒はゆっくり消えていく

父がお酒を飲む瞬間を、見たことがなかった。 これは、単純に父が下戸だから、という話ではな…

【短編小説】恋するトースター

彼女はトースター。 恋するトースター。 狭く雑多なワンルームの隅で。 下には電子レンジ、横にはケトル。 「あいつ、いつになったら俺を洗浄するんだ?てめぇの健康にも関係してんだぞダボがっ」 ケトルはすぐに怒り出す。 「まぁ、ろくに自炊もしない若い男が、ケトルを洗うなんて考えもしないでしょう。僕だって中でたまごが破裂した時くらいしか掃除されない」 電子レンジは冷静で分析的。 「衛生ってもんもう少し考えねえと、タクミ、マジでいつか体壊すぞ」 部屋主のタクミは24歳のサラリ