介護を終えた部下「私には看取ってくれる人がいないんですよね。」
先日孤独死に関するニュース記事を読んでいた。
記事を読みながら以前部下として働いていたTさんのことを思い出した。
Tさんは私より10歳ぐらい年上で40代中盤の女性だ。
本人が望んだのかどうかは知らないがTさん曰く「気づけば独身でここまできました。いい人いないかなー。」とよく話していた。
Tさんはちょっと癖ありだがユーモアがあってチームに笑顔をもたらしてくれる貴重な人だった。
あるときTさんからこんな相談をされた。
私としては介護の問題は誰にでも発生する可能性があり、未来の自分も両親の介護で誰かに迷惑をかけるかもしれないので、「気にしないでください。何かあればチームメンバーでサポートするので、できることがあればいつでも仰ってくださいね。」と伝えた。
Tさんはお姉さんがいるのだが、お姉さんと両親の関係が良好ではなかったそうで、介護はTさんがほとんどやっていた。
ある日、会社でTさんに呼び出された。
認知症の徘徊の話は聞いたことがあったが、こんなに近くで起きると一気に現実感が増す。
その後も仕事中に介護関係の方や警察から連絡が来ることがあった。
仕事も忙しいはずなのに嫌な顔せず明るく仕事をされるTさんに対して、素直に尊敬の念を持った記憶がある。
数か月後、Tさんのお母さんが亡くなったと報告を受けた。
後日、オフィスでTさんがつらつらと本音を話してくれた。
私は言葉に詰まり「そうですか。これまで大変でしたね。」とだけ伝えた。
現代は価値観の多様化が進み、結婚してもしなくてもいい時代になった。
子どもを作っても作らなくてもいい時代になった。
価値観の多様化とは人生の答えがないことと同義だと思う。
これまでの学校を卒業して20代で結婚して、結婚したらすぐに子どもを作って、仕事は定年まで働いて、余生を過ごす。
このモデルコースから外れる人たちがたくさん出てきた。
私だって結婚して9年も子どもがいないので外れている側の人間だ。
今が楽しければそれでいい。
それはそうなんだけど、未来の自分が今の自分を見てどう思うのか、なんてことも頭の片隅に入れておいてもいいのかもしれない。
Tさんがつらつらと話してくれた本音は定期的に私の頭の中にこだまする。
あのときなんて答えたらよかったんだろう。