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賞与はどうやって決まるか? キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(36)
もうすぐボーナスですね(註:書いたのは12月15日なので)。
いいなぁ。
うちはボーナス出ません。
自分しか社員がいないからです。
それだけではなくて、自分で会社をやっていると、つまり経営者という立場になってしまうので「役員賞与」になってしまって、益金処理といって、経費扱いにならないんですよね(かなりおおざっぱにいっていますけど)。
なんだかな~、という感じです。
前の会社は年俸制でしたから、夏と冬のボーナスは2カ月分固定でした。
期末賞与だけは会社の業績によって変動しましたが、夏と冬の定期賞与は、年俸が決まった段階で、ボーナスまで決まってしまうというわけです。
楽しみがないんですよね。
夏の賞与、冬の賞与、春の昇給と、ちょうど通知表みたいに3回あって、それなりに季節の変わり目と合わせてわくわく、どきどきしたものです。
そういうのが良いという人もいれば、はじめから金額が読めていた方が計画が立てられて良いという人もいます。
人事制度って、こうした好みの問題もあるから難しいのですねぇ。
というわけで、今回は賞与のお話。
基本的なお話なので、人事の方にとってはつまらないかもしれません。
★賞与制度理解のポイント
賞与制度がどんな特徴を持っているかを把握するには、逆にいえば新しい賞与制度を設計する時のポイントが、3つあります。
A)賞与原資をどうやって決めるか(各人への支給額を積み上げる積み上げ方式か、あるいは全社業績などによりまず原資を始めに決めてしまう原資決定方式か)
B)個人への支給額をどのように決めるか(いわゆる賞与算定式というものです)
C)Bにも関係しますが、支給額に人事考課の結果を反映させるとき、どのような内容をどの程度反映させるか(賞与考課の内容ということ)
当然、毎月の給与との兼ね合いがありますから、賞与だけを検討するというわけにはいかないのですけれども、おおよそこれらの視点で確認すると、どんな目的を持った賞与制度なのかを把握することができます。
まぁ、世の中にはなんのポリシーも感じられない賞与制度というものもありますが…。
★賞与原資の決め方
前述の通り、賞与原資の決め方には大きくわけて二通りあります。
一つは、結果的に原資が決まる「積み上げ方式」。
1)個人毎に支給額を計算する(このときの方法論が3つのポイントのBにあたります)。
2)全員分を合計して総支給額を計算する。
3)会社としての支払可能額と比較する。
4)もう少し出せるか、もっと減らさないといけないかを検討する。
以上が、積み上げ方式の場合、最も一般的な決め方です。
支払可能額といっても、多くの場合、前年支給実績額などを参考にしたり、同業他社平均を参考にしたりすることが多いようです。
よく、賞与○カ月分という示し方をしますが、積み上げ方式の場合はこの総支給額が賞与算定基礎額(普通は給与の基本給ですが、政策的に役職手当や扶養手当などを含めることもあります)の何カ月分に相当するかを言っていることも少なくありません(それぞれの社員が何カ月分かを計算してその平均月数を用いているところもあります。あまり格差はありませんが、若年社員が多い場合は個別に月数を計算して平均する方が高めに出るようです)。
逆に賞与支給原資を先に決める方法もあります。
「総額管理方式」と言うこともできるでしょう。
このときのポイントになるのは、賞与支給原資をどうやって決めるかという問題と、どうやって配分するかという問題です。
後者は前項の3つのポイントのCに該当します。
そこで前者の賞与原資をどうやって決めるかに絞って話を進めましょう。
賞与原資の決め方には、積み上げ式に似ていますが賞与算定基礎額の○カ月分という方法もありますし、経常利益や貢献利益の一定割合をあてるという方式があります。
後者はたとえば、利益三分法あるいは利益四分法というのがこのパターンですね。
利益三分法とは、計上された利益は株主、従業員、会社そのもの(つまり再投資)の3つに分配すべきであるという考え方です。
三分法とはいいながら、割合は3分の1ずつとは限りません。
四分法は考え方としてこれに社会(税金)を加えたものです。
利益から税金を納めるのだから、この分は差し引いてから考えようという発想です。
この場合も4分の1ずつとは限りません。
このほかに、付加価値額(売上高から外部支払価値を引いたもの。割り切って言うと売上げから原材料費などをのぞいた粗利益に近いです)に労働分配率を乗じて、その中からすでに支払った人件費を差し引いた額を賞与原資とするという考え方もあります。
いわゆるラッカープランというものでね。
労働分配率とは人件費を付加価値額で割ったものです。
事業によって生み出した付加価値は労働と資本で分配するものと考えるとき、労働側への分配をどのくらいしているかを示す数字で、大きいほど労働への分配が厚いということになります(その分人件費の比率が高いということになりますから、労務倒産に近づくといってもよいので、高ければよいかというとそうでもなくて、程々がよろしいのですが)。
予め基準となる労働分配率を定めておいて、これに実際に獲得した付加価値額を乗じることでその期間中に労働サイドへ配分する予定だった人件費を算出します。
ここからすでに支払った人件費を減じると、まだ支払っていない人件費が求められるので、これを賞与原資として用いようというのがこの考え方です。
付加価値額が増えれば増えるほど賞与原資も増えるわけですから、社員のがんばりが跳ね返ってくる仕組みといえます。
ただ良いことばかりではなくて、当然の話ですけれども付加価値額が低下すれば賞与ゼロもありうるということになります。
このほかにも様々な決め方があります。
どのように決めるかということはその企業の人事の基本的な考え方を反映しているといってよいでしょう。
成果主義を人事の基本方針として標榜する企業であれば、後で説明したような企業の業績に応じて変動するような仕組みを持っているはずで、そうでなければ、基本方針と現実の施策の中に不整合が見られるといって良いと思います。
★個人への支給額の決め方
個人への支給額を決める計算式のことを賞与算定式と言います。
よくあるのは、
支給額=賞与算定基礎額×月数×賞与考課係数×出勤率
です。
先に述べたように賞与算定基礎額には基本給が用いられることが多く、その基本給が勤続年数や年齢に応じて増加する方式になっていると、賞与もその傾向を踏襲、増幅することになります。
いくら賞与考課の結果を色濃く反映させたとしても、基本給の性質が変わっていないと、いびつな結果になりやすいといえます。
最近の傾向として増えているのはポイント制賞与制度です。
これは社内での格付けや役職、人事考課の結果などを用いて各人の持ちポイントを計算しておき、Aで決めた賞与原資を全社員の持ちポイントで環って、1ポイント当たりの単価を算出し、このポイント単価に各人の持ちポイントを乗じて支給額とする方式です。
式にするとすれば
支給額=ポイント単価×持ちポイント
持ちポイントの計算は役職のポイントや社内等級のポイント、人事考課の結果をポイント化したものです。
たとえば
持ちポイント=役職ポイント×社内等級ポイント×賞与考課ポイント
=課長なので12×7等級なので7×Aなので14
=1176ポイント
ポイント単価が500円なら支給額は58万8千円ということになります。
基本給とは関係なく決められる、原資を柔軟に配分できるなどの特色があります。
ただ、ポイントが同じであれば支給額も同じということですから、微妙な格差というのはつけづらいのです。
「竹を割ったような配分方法(?)」だと私は思っています。
支給額の計算方法もこのほかに様々ありますし、折衷案みたいなものや、二つの支給方式で計算しておいて後で合算するという方法もあります。
これもまたその会社の人事基本方針の現れです。
そうそう、それまでの運用によりますが、賞与は支給時期に在籍していなければ支給しなくても良いものです。
賞与が出るまでは頑張るという人が多いのもこの理由によるものですね。
★人事考課結果の中身や反映のさせ方
賞与に期間中の働きぶりだとか貢献度を反映させるためには、先のポイント方式であれば賞与考課ポイントに反映させますし、賞与算定基礎額基準方式であれば賞与考課係数に人事考課の結果を反映させることになります。
どれくらいの格差を付けるかがここで決まるわけですね。
ポイント方式であれば、標準考課の時に5ポイント、1ランク上の考課結果であれば6ポイントと決めれば、ここで1.2倍(6÷5)の格差が付くことになります。
問題はその考課の中身です。
多くの企業、特に職能資格制度を運用していたり、あるいはその名残を持っていらっしゃる場合は、「業績」「成績」「能力」「勤務態度」の大きく4つの区分があって、それぞれにどれだけのウエートを乗じるかが賞与考課か昇給考課か、あるいは昇格考課かによって異なっているのではないでしょうか?
一番多いのは業績のウエートが高くて成績や能力、勤務態度のウエートが低いというパターンでしょう。
中には業績のみとするところもあるかもしれません。
ここもその会社の考え方が反映されるところです。
★その他の要因
さて、その他に賞与制度上の問題となってくるものに次のような事柄があります。
1)グループや部門の貢献度をどのようにして反映するか
これは、たとえば先のポイント制などの場合、個人の人事考課の結果は反映されているけれど所属部門の結果は反映されていません。
貢献度の高い部門も低い部門も同じでよいのか? という疑問から発生する問題です。
これもその会社の考え方です。
マーケット毎の運、不運もあるのだからということであれば、反映しないということもあるでしょうし、グループや部門の結束を高める上であった方がよいと考える会社もあるでしょう。
ただし、それぞれに一長一短があります。
反映させると、業績が低くても部門を引っ張ろうとして頑張っていた社員が、業績の高い部門にいるのだけれどもほぼなんの貢献もしておらず、ただいただけという社員よりも賞与支給額が低くなる可能性があるといったことなどです。
2)賞与の支払い回数と変動幅
社会保険料の算定が総報酬制になるまでは、賞与とみなされるかどうかで社会保険料の料率が違っていましたから、その判断材料の一つである賞与支給回数は年3回以内にする必要がありました。
しかし今では、極論を言えば毎月払っても変わりません。
年4回四半期決算に応じて総額を決定するということも可能です。
また考課結果を反映するにしてもその程度を一定にする必要はなくて、業績に季節性があるのであれば、全体への影響が大きい時期(つまり売上げや利益の高い時期)に近い賞与は賞与原資を多めに配分し、考課結果の反映も多くするが、そうでないときは原資を抑えて、考課結果も反映しないといったような工夫をすることもできます。
他社と同じような賞与制度とする必要はありません。
ご自分の会社の賞与制度はどんな特長があるでしょうか?
相談に見えられた方の会社では? そしてそれがどんな影響をもたらしているでしょうか?
一度ご確認なさってはいかがでしょう?