職務給が根付かない理由の一つは… キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(43)
★日本に職務給が根付かない訳
つい先日、親しい方とお昼ご飯をとりながら話をしていて、「何で日本には職務給が根付かないかね~」という話になりました(註:という話を2005年には既にしていたわけですよ…。だから人事屋さん的には全然目新しい話ではないかも…)。
職務給に対する是非というのもあるのでしょうけれど、それ以外に、職務給の前提条件とも言える、役割に応じた報酬とは一体どれくらいなのかという職務給の「相場」が構成されていないというのも大きな要因です。
外食産業やサービス業だと、例えば店長クラスだとこのくらいという、おおよその相場感があります(おおよその相場観ですからそれほど厳格な、明確なものではありません)。
パートさん、アルバイトさんについては、初任時給は広告に載りますから分かりますが、役職に就いているパートさん、アルバイトさんになると若干の推測が加わります。
また大工さんや左官屋さんなど一人親方的に仕事をなさっている方、職人と呼ばれる方にも相場があります(建築関係だと積算するのに必要ですからね)。
コンサルタントもある程度の報酬水準というのがありそうな気もします(コンサルタントに近い、専門的な知識を提供する弁護士や税理士の方々は標準報酬というのを業界として設定されていますね)。
しかし、その他の一般的(?)な会社の場合、相場というのはないように思います。
社会での相場感はもとより社内での相場感(○○部の部長は年収いくらくらいというもの)もないところも少なくないようです。
こういう企業は多くの場合、役割や仕事の中身ではなくて、年齢や社歴、あるいは配偶者の有無といってもので決まっているから、やろうと思っても相場を構成することはできないかもしれません。
職務給の相場が構成されるには様々な会社からデータが公開されることが必要でしょう。
コンサルティングをしていても、「うちくらいの会社だと、○○部長クラスでいくらくらいなんですかね?」と聞かれることが少なくありませんから、相場を知りたい会社は多いと思います。
ニーズはあっても公開されないのは、データが集まらないからかもしれません。
他社の相場は知りたいけれど、うちのデータは出したくない-という訳ですね。
データを提供する会社もあるにはあるのですが、対象が役員や経営幹部層に限られていたり、有料だったりして、個人が確認するためには使えません。
もう一つの理由は、きっとこれがもっとも大きな要因ではないかと思うのですけれど、日本の場合、職務の括りが曖昧だからではないでしょうか?
ある人が異動すると、その人がやっていた仕事まで一緒に異動してしまうということ、頻繁に起きてませんか?
担当者が変わると仕事の領域が広くなったり、狭くなったり。
その役割のを担う人の能力によって担当する職務領域が変わってしまうのです。
これだと役割に応じた職務給というのは、そもそも決めづらいですし、他社との比較も容易ではなくなってしまいますね。
★報酬水準とキャリア・プラン
そもそも何でこんな話になったかというと、ある人が自分のキャリア・プランを考えようとするとき、どんな役割があって、それはどんな業務内容なのか、処遇はどうなのか、そのためにどんな職務経験やスキル・知識・資格が必要なのかといったことが分からないと、プランを立てにくいよねぇということが発端でした。
あるキャリア・ゴールを選択しようとするとき、その道にどんなことが待ち受けていて、その結果、処遇上はどうなるのかといったことも、分からないと納得して選べないですよね。
自分はこの役割にコミットしているから、どんな処遇でも大丈夫! という人もいるかもしれないけれど、例えば職務経験が必要だとしたら、そのために自己申告を出して異動するなりしなければならないし、その経験をしている間は他のことはできないわけで、そうしたリスクを取ってでもやる価値があるのかどうかということは、仕事そのものに対するコミットだけでは決められないことも多いと思います。
好きなことだったら、お金を払ってでもやりたい-というのも本音だと思いますが、それだけでは、観念の世界では満足できていても、現実の世界で続けていくことができません。
★それでもデータは増えつつある
とはいえ、労政時報などで、企業規模と職責別に、どれほどの年間報酬が支払われているのかというデータが定期的に公表されるようになってきました。
またこれとは別に厚生労働省が行っている賃金センサス(賃金構造基本統計調査)なども役立ちます。
このほかにコツコツ探せば意外なところに出ていたりしますので、探してみるのもおもしろいかもしれません。
例えば独立行政法人労働政策・研修機構のHPにある職業データベースがあります。
ただ、これは職業別なんですよね。
一番ほしいのは部長クラスから入社数年目までの「ホワイトカラー」(これって職業か?)の報酬水準です。
企業秘密だったり、クライアントに対する守秘義務があったりして難しいのでしょうけれど、求人媒体を出しているところ、人材の紹介事業を行っているところなどが協力してデータベースとして提供するようになればよいなぁと思います(註:現在では外資系コンサルティングファームが提供していますが有料なんですよねぇ…)
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