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サクセションプランニング制度を設計する

サクセションプランニング(後継者計画)とは、経営者や重要なポジション(キーポジション)に対して、将来の後継者(サクセサー)候補を組織的かつ計画的な早期選定・育成を通じて、後継者を準備する仕組みです。

サクセションプランニングの"もう1つ"の効果

サクセションプランニングの直接の目的は後継者候補の充実(リーダーシップパイプラインの充実)にありますが、導入効果はそれだけでなく、優秀な人材をさらに伸ばす「ラーニングカルチャーの醸成」にもあると感じています。

通常、管理職にとっては、部下の能力の不足をいかに解消するかに多くの時間をかけていると思います。この「マイナスをゼロにする育成」の重要ではあるのですが、サクセションプランニングでは、管理職は (場合によっては将来は自分よりも)上位職の役割を担えるポテンシャルのある部下を選び、その能力をさらに伸ばすことが求められます (プラスをさらにプラスにする育成)。
組織発展のためには、マイナスをゼロにするだけでなくプラスをさらにプラスにする育成が組織に根付いていることは重要であり、サクセションプランニングの導入によって、管理職一人ひとりにその意識や手法が浸透するという効果があります。
私自身も、新任の管理職が最初は相当に悩みながらも、部下の中から自身の後継者候補を選び、サクセションプランニングの一連の仕組みを一通り経験した後、部下育成の意識・能力が大きく成長した姿を何度も目にしました。


サクセションプランニングの設計

ここからは、実際のサクセションプランニングの設計ポイントについて整理しました。
尚、サクセションプランニングの運用については、こちら(note)をご参照下さい。

【設計1】 サクセションプランニングの「方針」を設定する

最初に、サクセションプランニング導入・運用の方針を社内関係者の間で整理します。
1. サクセションプラン導入の目的(何を期待成果として導入するのか)
2. 後継者候補の対象範囲(どのポジションの後継者を準備するのか)
3. 後継者候補の選定方法(誰の責任でどのように選ぶのか)
4. 後継者候補の育成方法(何を重視して育成するのか)
5. 後継者候補の管理方法(候補者の状況把握や候補者の入替えをどうするのか)
6. タレントマネジメントシステム等のツールやデータの活用方法(ツール/データをどのように活用するか)
特に「2.後継者候補の対象範囲」については様々なケースがあり、影響範囲や運用にも大きな影響があるため十分な検討が必要です。
例えば、「経営者」のみの後継者候補の選定・育成を対象とするケースや、ミドルマネジャーの中でキーポジションのみを対象とするケース、ミドルマネジャー全員を対象とするケース(全管理職が自身の後継者を準備するケース)等があります。
対象を下位層の管理職まで対象を広げれば広げるほど、組織全体としての計画的な後継者育成が可能となりますが、対象ポジション数が増える分だけ、HRや現場管理職の運用負担が増えることになります。

【設計2】 サクセションプランニングを構成する「5つのモジュール」

次にサクセションプランを構成する5つのモジュールを設計します。

サクセションプランニングの5つのモジュール

  1.  対象ポジションの設定

  2. 後継者候補の選定

  3. 後継者候補の個別育成計画(IDP*)の策定   *Individual Development Plan

  4. 後継者候補の育成

  5. 後継者候補の成長評価

後継者候補の選定(上記2.)と個別育成計画IDPの策定(3.)については、外資系企業ではタレントレビュー/人材会議の場で実施するケースが多いですが、日本の企業では、特に経営者やキーポジションのみの後継者を対象とする場合は、役員・人事部による人材委員会等の中で行うケースも見られます。

【ご参考】「タレントレビュー」については、別の記事: こちら(note)をご参照ください。

以下では、後継者候補の「育成」について何点か補足したいと思います。

補足(1): 後継者候補の個別育成計画(IDP)について

後継者候補1人ひとりの個別育成計画(IDP)では、後継者候補の育成課題や育成方法を (加えて、場合によっては退職リスクとリテンション策等も) 設定します。

①「育成課題」の掘り下げ
個別育成計画(IDP)策定の最初のポイントは「後継者候補の育成課題をどこまで掘り下げられるか」にあります。
というのも、後継者候補に挙げられる人材は組織内でも自他共に"優秀"と認識されているであろう人材であり、その"優秀"な人材が、ずっと残してきている育成課題はそう簡単に解決できるものではありません。
本人が、自分の育成課題に気づいていないということはめったに無く、指摘されている育成課題を認識している上で「自分では出来ていると思っている」「それを強化しなくても自分流のやり方で十分にやれている」「そもそも、それを強化する必要性を感じていない」等々といった反応が後継者候補本人から帰ってくることも少なくありません。
タレントレビュー/人材会議等の後継者候補の育成計画をディスカッションする場では、その育成課題について「XX知識の不足」といった表面的な育成課題にならないよう十分に深堀した議論を行うことが必要となります。

ターゲットポジション登用までの「経験」のデザイン
選定された後継者候補がターゲットとするポジションに登用可能となるまでの期間は、多くの場合、長くても3年以内程度ではないかと思います (例: 3年以内に登用可能な候補者/1-2年以内に登用可能な候補者/今すぐに登用可能な候補者(Ready Now) 等の区分で選定するケースもあり)。
3年以内に登用できるようするためには、3年間の育成"加速"計画を立てる必要があります。その際に、育成のために異動が有効・必要な場合もありますが、3年間で異動できる回数はせいぜい1回か2回です。この限られた異動機会を活用して、どこに異動させるのが(何を経験してもらうのが)最も成長加速に効果的か、については十分に議論する必要があります。
例えば「中核の成熟事業の経験しかない候補者であれば新規事業の経験をさせる必要があるか否か」「小規模組織のリードしか経験がない場合、大規模組織を経験させる必要があるか否か」、その他、海外の経験、他事業部の経験、グループ会社経営の経験、M&Aや組織立て直しの経験など、経験を考える視点は多様にあります。一例ですが、これら経験機会をHRで一覧化して検討の際に参加者に配付する等の方法もあります。

補足(2):  後継者候補の育成プログラムについて

後継者候補の育成プログラムには下記の通り様々なものがあります。

①自社の「リーダー育成モデル/体系」の設計
上記の通り、次世代リーダーの育成プログラムには様々ありますが、それらを効果的に組合せて活用するために、予め組織としての「リーダー育成モデル/体系」を設計しておくことも有効です。
リーダー育成のステップをモデル化した例として、1)最初に経営者から後継者候補に期待を伝え、2)「経営者」「リーダー」とは何かを知り、3) 自己理解のために360度評価を行い、その上で 4)自身のキャリア目標・成長課題を認識し、5)必要な知識・スキルを習得しながら、6)メンター等によるサポートのもとで実践の場で挑戦・活用し、7)定点的なフィードバックにより内省と次の目標を設定する、等のサイクルで表したケースもあります。上記1)から7)の各ステップで活用する育成プログラムを割り当てていくことで、体系立ったプログラムの設計・運用が行えます。

経営者候補の育成の場は「インプット」だけでなく「実証」の場
後継者候補の育成機会の設計に当たって強く意識しているのは、一連の研修等の育成は知識・手法等を「インプット」するだけの場でなく、後継者候補が将来の経営者・リーダーに適していることを自らで「実証」する場とすることです。
研修内のケーススタディやプロジェクト内、プログラム参加中いかなる場面でも将来の経営者・リーダー候補として求められる言動を取っているかについて可能な限り確認しておくと、次年度の後継者候補の選定(入替え・見直し)の際の効果的な検討材料の1つとなります。
後継者候補本人にも、会社からの期待そして後継者候補としての「責任」の1つとして、育成プログラム参加に当たって十分な意識を持ってもらう必要があります。

③経営者候補の他組織からの「認知向上」強化
上記の育成機会における「実証」と同様の視点ですが、後継者候補となった人材については、所属組織を超えてそのポテンシャルや能力を認知してもらうことも重要と考えています。
タレントレビュー/人材会議等の後継者候補選定の場で、上司は、後継者候補として推薦したい部下の優秀さや適性を熱く語るのですが、他の管理職がその人材をよく知らないためにディスカッションにならなかったり、もう少し様子を見て来年改めて判断する、というケースも見られます。
多くの場合、組織の上位に行けば行くほど影響範囲が広くなるため、いくら優秀でも周囲が"知らない"人材が、上位層ポジションの後継者候補として適しているかは議論が必要です。
そこで、育成においては、所属組織内に"閉じた"育成とならないよう注意することが必要で、組織横断プロジェクトへのアサインや、他組織の上位職によるメンタリングなど、組織を超えて認知してもらうよう上司やHRは育成機会の準備を行う必要があります。


サクセションプランニングの運用編については、こちら(note)をご参照下さい。


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