「そんなんやったってどうせムダだー」
アサコちゃんが、植えたばかりのアサガオのタネに水を撒いていると、トオルくんが囃し立てました。
「もう!!トオルちゃんうるさい!!」
アサコちゃんはジョウロをトオルに向けました。
「いつもいつもどうせどうせ。いい加減にして!トオルちゃんなんか、ヒーローじゃない!!どうせマン怪獣よ!!どうせマン、あっちいって!!」
アサコちゃんは怒ってジョウロを振り回しました。
ジョウロの水はトオルにジャンジャンかかり、トオルはびしょ濡れ。
せっかく段ボールと金色の色紙で作ったヒーローみたいなカッコいいベルトと刀もビショビショ。
トオルは怒って、アサコちゃんに掴みかかりました。
アサコちゃんは今水を撒いたばかりの花壇に尻もちをつきました。
アサコちゃんのお気に入りのチューリップのスカートが泥まみれ。
泥まみれのスカートを見たアサコちゃんは大泣きし、今度はアサコちゃんがトオルに掴みかかりました。
トオルが尻もちをつき、その拍子に段ボールの刀がグニャリと折れました。
今度はトオルが大泣き。
あっという間にグッチャグチャの大泣きの大げんか。
先生が気づいて飛んで来た時には二人とも全身泥まみれでした。
あらあらまあまあ。
先生は呆れてそう言いました。
どうせ死ぬんだから、勉強なんかしたってムダ
どうせ壊れるんだから、砂のお城なんか作ったってムダ
どうせ枯れちゃうんだから、アサガオなんか植えたってムダ
トオルくんは、いつも、どうせどうせ。
先生は二人を着替えさせると、イスに座らせました。
どうしたの?と聞くと二人は口々にアッチが悪い!と大声で言います。
先生はため息をついて一人づつ聞くわ、と言いました。
「トオルくんはなんでアサコちゃんに意地悪したの?」
「意地悪なんかしてない!教えてやんなきゃ分かんないじゃんか!アサガオなんか育ててもムダだ!!どうせすぐ枯れるんだから。すぐ枯れるモンを育てるのなんか時間のムダじゃないか。だから教えてやったんだ」
先生の質問にトオルくんは大声で反論します。
「すぐ枯れちゃうものを育てるのはトオルくんにとってはムダなのね?」
先生はトオルくんに聞きました。
「誰にとってもムダじゃんか」
トオルくんがそう言い返すと先生は首を傾げて
「そうかな?」と聞きました。
そして先生はトオルくんの前にしゃがみました。
「トオルくんにとって、一生懸命作ったベルトと刀は大事なものだったんだよね。でも他の人にしたら、段ボールと色紙で作るベルトや刀はただのムダに思えるかもしれないよ。だって紙や段ボールなんてすぐ壊れちゃうじゃんか。そんなのどうせムダだー」
先生は最後はトオルくんの口調をマネをして囃し立てる様に言いました。
そしてトオルくんと目を合わせました。
「どんな気持ちがする?」
そう聞きました。
トオルくんは擦り傷だらけの膝小僧の上でギュッとこぶしを握りしめました。
それからトオルくんは相変わらずヤンチャですが、ほんのちょっとだけ変わりました。
どんな風に?
それはナイショです。
どんな風に変わったと思いますか。
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