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リアリティショックの波を越えて〜新しい環境で自分を再発見しよう!〜

長かった夏も終わり、涼しい季節となりました。
きっとあっという間に12月になり、一年が終わるんでしょうね。また年を取っていくのか…(笑)。
 
さて、キャリアの自由研究、ここまでは大学生の就職活動にしばらく焦点を当ててきましたが、ここで大人のキャリア研究に立ち返りたいと思います。
 
秋のトレンドと言いますと、転職した人たちが組織に落ち着き始める時期だと考えられます。「夏のボーナスもらったら転職しよう!」と考える人が一定数いて、そこから転職活動→新しい仕事スタートとなり、9月・10月あたりで新しい職場になじめるかどうか、そんなタイミングでしょうか。

今回のテーマは「リアリティショック」

そこで今回のキャリアの自由研究ですが、転職してしばらくたったころに生まれる「リアリティショック」がテーマです。
 リアリティショックとは、新しい仕事や職場で生まれる理想と現実のギャップを表しています。新卒の社員によく起こると考えられていますが、転職を行った新入社員の方にも起こると考えられています。
 
思い返すと、新卒で入った会社で同期の新入社員が数カ月で会社に来なくなってしまう、転職してこられた方が急にいなくなってしまう、リアリティショックが起きてしまいイメージとの違いにショックが生まれたんでしょう。
 
では、誰しもに起こりうる現象を乗り越えるにはどうすればいいか。
1つの研究論文をご紹介したいと思います。
タイトルは「転職時のリアリティショックと離転職意思─自己概念明確性の効果に着目して─」
片山まゆみさんと藤桂さんが2023年に発表された論文です。
 
タイトルをご覧頂くと分かると思うのですが、リアリティショックを乗り越えて職場に定着し、ワークエンゲージメントを高めるためには「自己概念の明確性」が鍵になっているという研究になります。
心理学者のCampbellが「自己概念の明確性」が大切であることを提唱したことが、今日の研究の土台になっているようです。自己についての理解が確信的であり、安定していることが大事であると考えたそうです。

「自己概念の明確性」ってなんだろう?

心理学の用語ですが、自己理解、自己肯定感、などよく似た言葉が多いように感じます。この自己概念は研究論文もよく使われているのですが、統一された定義としてはまだしっかりとしたものが定着していないように思います。
 
うーん、それだけだとちょっと分かり辛いので、
徳永・堀内(2012)「邦訳版自己概念の明確性尺度の作成および信頼性・妥当性の検討」の研究論文をちょっと覗いてみると、

  • 性格に矛盾を感じるか

  • 別の日に異なる意見を持つ日があるか

  • 自分がどんな人間か考えるのに時間を費やす

  • 自分が本当の自分でないような気がする

などが質問項目として挙げられているようです。 
自分の意見、考え、性格、信念についてブレはないか、安定しているか、という考え方だといえます。

研究論文に戻ると…

結論を予測すると、リアリティショックが起こったときに、自己概念の明確性が媒介になって、ワークエンゲージメントを上げ、離転職意識を下げる、ということは想像できます。
 
この研究のオリジナリティは、その自己概念の明確性を極端性・確信性・安定性の3側面を数値化し、分析に枠組みに加えたことなのです。ここの説明についてはのちほど。
 
結果・考察はいろいろな視点のものがありましたが、特に以下の内容に焦点を当てて引用したいと思います。

安定性の高さはむしろプロアクティブ行動を抑制する可能性も考えられる。またそれゆえに,転職後の職場での仕事への積極的な姿勢が形成されにくく,結果としてWEの低減に結びつきやすいことも推察される。その一方で本研究からは,安定性が低い場合ほどRSがWEに対してもたらすネガティブな影響が強まり,かつ,WEの低減を媒介して離転職意思の増大につながるという調整媒介効果も示された。この結果は,SCC が低い者ほど,ネガティブなフィードバックや組織内意思決定プロセスでの不当な扱いを受けた際にネガティブな感情が生じやすいという知見のように(De Cremer & Sedikides, 2005; Stucke & Sporer, 2002),SCC の安定性が低い場合には,RSの発生時により強いネガティブ感情が生じ,WEも阻害される可能性が推察される。このように考えるならばSCCにおける安定性の低さとは,通常の転職時には組織社会化やプロアクティブ行動を促すための柔軟性として機能する面もある一方で,転職前から抱いていた期待が満たされないようなRS状況下では,その際のネガティブ反応をより強めるような不安定性としても機能するというように,ポジティブとネガティブの両面を併せ持つ可能性が推察される。これらに対し確信性は,WEに対し正の,離転職意思に負のパスを示しており,基本的には確信性の高さはポジティブな効果を持つことが示唆された。自己概念に対する確信性については社交不安との関連性が示唆されているが(Wilson & Rapee, 2006),確信性が高い場合には,転職先において新たに形成された対人関係においても評価懸念や不安を抱くことなく適応しやすく,それゆえに高いWEを抱くことができ,離転職を志向する意思が低くなりやすい可能性が考えられる。しかし確信性は同時に,RSが経験され強いショックが感じられている際には,むしろWEの低減を媒介して離転職意思の増大につながるという過程をもたらす可能性も示された。

片山・藤(2023:9)から引用

この考察に出てくる、「確信性」とは自己概念に対して自信を持っていること、「安定性」とは時間を経ても自己概念に変化が生じないこと、といえます。
 
ちょっと引用が長すぎましたね(笑)、考察の要点を絞ってまとめると、
リアリティショックが起きたときに、自己概念の「確信性が高いor安定性(=柔軟性)が低い」と、ワークエンゲージメントが下がり離転職意思が高まるという結果になります。
 
新しい職場で理想と現実のギャップを感じたときに、自分の考えに自信を持ちすぎる(確信性が高い)と柔軟な対応ができなくなってしまう。
また時間経ても変わらない自己概念を安定的に持っていない(安定性が低い)と不安が生まれ、モチベーションが下がってしまう、ということになります。
 
あまり自分の考えに固執せずに柔軟に考えることや、これまでの自分の人生を振り返ってやってきたことに自信を持てるようになることがリアリティショックを乗り越える方法だとこの研究は示唆しているように思います。

新入社員を受け入れる側としては…

じゃあ新しい同僚を仲間に受け入れる側としては、リアリティショックが理由で辞めて欲しくないわけでしょうからどうすればいいのか?
 
まずは、その人の自信を持っている考えや意見に耳を傾けて受け止めてあげて、新しい職場との違いを受け入れられるように丁寧に寄り添っていくことが大事だといえるのではないでしょうか。
 
そして、新しい仲間のそれまでたどってきたキャリアを聞いてあげて、安定性を確保できるように、今の職場とのつながりやそこで働くことの意味や価値を一緒に考えてあげることが発展性を生み出すのではないでしょうか。
 
新しい職場でリアリティショック感じたら、
自分の意見に固執し過ぎていないか、これまでの自分の人生を見失っていないか、冷静に考えてみてください。
 
【引用文献】
・片山まゆみ、藤桂(2023)「転職時のリアリティショックと離転職意思──自己概念明確性の効果に着目して──」心理学研究 93 (6), 495-505
 
・徳永侑子、堀内孝(2012)「邦訳版自己概念の明確性尺度の作成および信頼性・妥当性の検討」パーソナリティ研究、2012 年 20 巻 3 号 p.193-203


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