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急性冠症候群のLDLコレステロール管理についてまとめてみた
天下○品のこってりラーメン、美味しいですよね。お酒を飲んだ後は、特に食べたくなっちゃいます。
脂肪分たっぷりの食事は美味しいのですが、脂肪のとりすぎは禁物です。特に急性冠症候群(ACS)を発症した患者さんにとって、LDLコレステロールは大敵です。
脂質異常症が長期間続くと、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を発症しやすくなることは言うまでもありませんが、二次予防においては厳密なLDLコレステロールの管理が求められます。
そこで、今回はACS患者さんのLDLコレステロール管理について、『急性冠症候群診療ガイドライン 2018年改訂版』(以後、ACS-GL 2018)をもとにまとめます。
二次予防としてのLDL管理
ガイドラインでは二次予防としてのLDLコレステロール管理をどのように推奨しているのでしょうか?
ガイドラインの表89 (ACS-GL2018, p91)をみていきます。
ACS-GL2018でclass Ⅰで推奨されているのは「ストロング・スタチンを認容可能な最大容量で投与する」のみでした。※1
ここで重要なことは、治療開始前のLDLコレステロールについて書かれていないところです。つまり、ガイドラインは脂質異常症の有無に関わらず最大用量のスタチン投与を推奨しているのです。
スタチンには多面的な効果がある
スタチンはLDLコレステロールを低下させる薬として有名ですが、LDL低下作用以外に、抗炎症作用など多面的な効果が報告されています。ACS-GL2018, p92では、『スタチンの心血管事故抑制効果は多数の無作為化試験で実証され,それらのメタ解析で確立』とまで記載しており、ACSの二次予防にスタチンは欠かせない存在といえます。
本邦でも最大用量のスタチン使用は,介入前のLDL-C値に関わりなく冠動脈疾患患者に対する望ましい治療戦略であることが明らかにされた (ACS-GL2018, p92)
LDLの管理目標
それでは、LDLコレステロールをどこまで下げればよいのでしょうか?ACS-GL2020, p91では以下のように記載しています。
本邦の二次予防におけるLDL-C管理目標値はこれまで100mg/dL未満とされていたが,2017年の日本動脈硬化学会ガイドラインでは,ACS に対する達成目標値は70mg/dL未満と設定された
ACS患者さんにおけるLDLの管理目標は100→70mg/dlに変更され、より厳格な管理が求められることになりました。※2
ガイドラインでは「最大用量のスタチンを用いてもLDL-C値が70 mg/dLに到達しない高リスク患者に対して,エゼチミブ投与を考慮する」をclass Ⅱaで推奨しており、スタチン以外の薬剤を併用してでも70mg/dl未満を目指したいところです。
ヨーロッパではさらに厳しい管理目標を設定
ちなみに"2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias : lipid modification to reduce cardiovascular risk" (ヨーロッパ循環器学会、ヨーロッパ動脈硬化学会のガイドライン)では、ACS患者のLDLコレステロール管理目標を55mg/dl未満に設定しています。※3
LDLコレステロール55mg/dl以下とはかなり踏み込んだ数値です。さすがにスタチンだけではこの目標値の達成は難しいでしょうから、エゼチミブ(ゼチーア®)、PCSK9阻害薬などの併用も必要になるでしょう。
まとめ
以上、ACS患者さんのLDLコレステロール管理について述べてきました。
最近は積極的なLDL管理の有用性が報告されており、LDLの管理目標値が徐々に厳しくなっています。これまではスタチンだけで目標を達成できることが多かったですが、ゼチーア®など他の内服併用もすすめていく必要がありそうです。
一方で患者さんは薬が増えることを嫌がったり、「こんなにLDLが下がっても大丈夫ですか?」と心配されることもあります。医師としてはエビデンスを勉強して、LDLを低下させるメリットをしっかり説明する努力が必要になりますね。
このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。
今後の励みになりますので、スキ、フォロー、サポートをよろしくお願いします。
注釈
※1:薬の作用の強さから、ロスバスタチン(クレストール®)、ピタバスタチン(リバロ®)、アトルバスタチン(リピトール)の3剤のことを「ストロングスタチン」と呼びます。
※2:2017年の日本動脈効果学会ガイドラインより管理目標に関する表を引用します。ACSの患者さんは二次予防の中の※に該当しますので、70未満が管理目標値になります。
※3:ASCVD (atherosclerotic cardiovascular disease)の患者さんは"very-high-risk"に分類されます。尚、ASCVDにはACS、安定狭心症、冠血行再建後、脳梗塞/TIA、末梢動脈疾患が含まれます。