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天色(あまいろ)ストーリー

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嬉しいことがあり、辛いこともある。 ありがちなれど愛おしい青春物語。
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天色(あまいろ)ストーリー❉あとがき

天色(あまいろ)ストーリー❉あとがき

最後までお読み頂きまして、どうもありがとうございました。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、これは中学時代から25歳までの自分自身をモデルにして書いた作品です。と言っても勿論まるごと事実ではなく、全体に細々とした事柄は端折ってシンプルに、ダーク過ぎる事柄はポップに明るくアレンジしたつもりです。

当時は、経済的に困窮した家庭に長女として生まれたことを、深刻に悩んでいました。
が、そこから

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天色ストーリー⑧❨そしてわりと明るい空·最終話❩【連載小説】

天色ストーリー⑧❨そしてわりと明るい空·最終話❩【連載小説】

この経歴には、理由があるんです。決して、何事も続かないタイプではありません。

美彌子のそんな主張を聞き入れる前に、まともな会社からはほぼ書類審査で落とされる。募集内容にやや疑問のある会社を受けてみると、すぐに採用されるも詐欺まがいの教材販売会社であったり、次に小さな事務所に雇われ半年ほど働いたものの、お給料が徐々に遅配となり、やがて完全に止まったり。それでも職種を厭わずアルバイトを見つけ、何とか

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天色ストーリー⑦❨明るい雲と暗い雲❩【連載小説】

天色ストーリー⑦❨明るい雲と暗い雲❩【連載小説】

短い間に決断して入学した専門学校で、同級生として出会った彼女達と自分との違いばかりが気になったのは、初めのほんのひと月くらい。きっと生涯の友になるだろうと確信するのに、さほど時間はかからなかった。
その学校の授業は、当然と言えば当然ながら、美彌子が想像したより実務的なものが多かった。だから学ぶ内容そのものより、むしろ彼女達との出会いこそが、この学校での大きな収穫だった。

入学金や初年度の授業料は

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天色ストーリー⑥❨雲は流れて❩【連載小説】

天色ストーリー⑥❨雲は流れて❩【連載小説】

美彌子の勤務先では、欠員の補填や引き継ぎ業務の都合から、退職の希望は2か月前に申し出るのが慣例となっている。
秋以降、再びむくむくと湧き上がる進学への渇望を抑えられなくなった美彌子は、考えに考えたのち、翌3月末をもっての退職の意志を年末に上司へ伝えた。

温かく迎え、また時には厳しく育ててもらった職場には、心から感謝しかなかった。それなのにこんなにも早い退職は不義理でしかなかったが、だからこそ早め

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天色ストーリー⑤❨空はまだ見えない❩【連載小説】

天色ストーリー⑤❨空はまだ見えない❩【連載小説】

頬にあたる風が、少し柔らかくなったと感じる陽気の頃。
合格者一覧の掲示板に、自分の受験番号は無かった。美彌子は、志望大学に落ちたのだ。

高3になった美彌子は、心を決めて進学の希望を真剣に両親に伝え、幾度かの話し合いを重ねた。予想通り母は猛烈に反対し、父は「まあ、お金なら何とかなるんじゃないか」と、相変わらずゆるくも優しかった。
その果てに、どうしても受けると言うならと両親から出された条件は、自宅

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天色ストーリー④❨この先の空が見えたら❩【連載小説】

天色ストーリー④❨この先の空が見えたら❩【連載小説】

美彌子の母は、不機嫌だった。

日曜日に行われた高校の二者面談に、珍しく母に代わって出席した父が、帰宅すると息せき切ってこう言ったのだ。
「お姉ちゃんの担任の先生に、娘の進学は考えていませんって言ったら、ものすごく驚いた顔で「なぜですか」って言われたんだよ」

当たり前じゃん、と美彌子は思う。
入りやすくて、入ったあとも家から通いやすいっていう安直な考えで選んだ高校。
市内のトップ校とは言えないけ

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天色ストーリー③❨トビラの向こう❩【連載小説】

天色ストーリー③❨トビラの向こう❩【連載小説】

この頃はすっかり日が短くなって、美彌子が夕刊配達から帰る頃は、もうほとんど真っ暗だ。ひたすら寒くて雪に覆われる冬へまっしぐらのこの季節。いつもなら気分も沈みがちな時期だけど、無事に普通の高校受験が叶うことが決まって、美彌子の心は晴れやかだった。

「それで、一樹さんとは、その後どんな感じ?」
「うーん…何ていうか」
「あれ?目がハート形になっちゃう〜って言ってたじゃん、先週」
「そうだったんだけど

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天色ストーリー②❨ヒミツの放課後❩【連載小説】

天色ストーリー②❨ヒミツの放課後❩【連載小説】

ミヤコは、悩んでいるらしい。
お母さんが定時制高校を勧めてきたとかで。
でもきっとそのうち、何とかなるんじゃないかなと思う。頭が良くて、先生達からも気に入られているミヤコ。そのうちどこかから救いの手が差し伸べられて、最後には良い方向へ収まるはず。私はミヤコほど成績は良くないけれど、そういう世の中の流れはわかる。多分、ミヤコよりわかっている気がする。

斉藤朋美の両親は、朋美がまだ幼い頃から、ずっと

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天色ストーリー①❨キセキの進学❩【連載小説】

天色ストーリー①❨キセキの進学❩【連載小説】

「じゃあ、お父さんもお母さんもいて、どちらも健康で働いてるけど、なぜかお金が足りないってこと?」
「そう。シンプルに貧乏」
「何それ」きゃははっとサイトウが笑い、つられて美彌子もつい笑った。

「子供の貧困」と聞いてすぐに思い浮かぶとすれば、シングルマザーが仕事に子育てにと1人で奮闘中だとか、何となく聞いちゃいけない複雑な事情があるだとか、そんな訳あり家庭のイメージ。だけど美彌子の家はサラリーマン

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