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2023年4月5日 ⑮離婚事由 春の嵐
「あのDVの話、確認の為にも聞く
けど昨年あった事なんだよね?」
協力者の方は落ち着いた声で
あったが私とのやりとりをいつも
より丁寧に進めてくれる気がした。
仕事が忙しい人であるにも関わらず
時間を割いてくれて申し訳ない
気持ちもある。話をしていて面白く
楽しい相手であり、物事の捉え方が
自分の観点と違い、尊敬出来る人であった。
自分の中で壮絶なDV経験だった為に
そんな目にあっていると
誰かに話してしまうと家族が家族では
いられなくなる気がした。
主人との問題が起きた時、市役所に
置いてあったDV相談のチラシや
女性専用の悩み相談の名刺にある
電話番号にかけてみようかと悩んだ
事もあったし、インターネットで
国や都が行っているサポートなどを
見た事もある。そこまでしたのに
自分の悩みを言葉にする事も
話す事にも自信は持てず、
主人の眼を盗んで悪い事をしようと
している罪悪感があった。
彼に言わせれば、いつもいつでも
「私が悪者」なのだ。
意見を言えば、文句が多いと言われ、
相談をすれば面倒だと煙たがられた。
そんな毎日が日常であった私の悩みを
誰か第三者に話した所で
何か変わるとは思えなかった。
何回も何十回も何年も我慢していると
「我慢している訳じゃない」
「私は大丈夫」と自分自身を
守るために記憶を偽って生きて
いく形になっていく。
本当の私は大丈夫なんかじゃなかった。
主人と揉めた際に外に飛び出し
命を終えたいと思った事は何度もあった。
実行に移さないと心に決めていても
「もう嫌だ、この世から消えたい。
終わらせたいよ、全て。」
私はひとり、心の中で
苦しさと悲しさを叫んでいた。
時には優しくなる主人と巡り合わせで
自分の元へ産まれてきてくれた
かけがえのない存在の息子がいる。
今日、涙が止めどなく溢れるほどの
悲しみと苦しみがあったとしても
明日の私が過ぎ去った事のように
振舞えば、家族はまた家族でいられるのだ。
そういう風にして日々、心を保たないと
見えない暗い闇に引きずり込まれて
二度と陽の当たる世界に戻っては
これない気がしたからだ。
「あのさ、今から自分が感じた
事を話してもいいかな?」
私の話や気持ちを一通り、
聞き終えてからの言葉であった。
「もちろんだよ、驚かせた?
なかなか言い出せない話を第三者へ
伝えるというきっかけを作ってくれて
本当にありがとう、心から感謝してる」
私は電話口にも関わらず相手を敬い頭を下げた。
「まずさ…頑張ったよね。
今までよく生きてきたなと思う。
生きててくれてありがとうって
思った。これまでの話を聞いてさ、
いつ命を落としても、いつ命を終えても
おかしくなかったって感じた。
辛いとかって言葉じゃ伝えきれない
ものがずっと胸にあったよね。
ご主人の事はさ、もちろん好きに
なって一緒になった相手だし、
二人の間には息子さんもいてさ、
本来凄く幸せな訳じゃん。
だけど、そこには誰にも言い出せない
苦しさがあってずっと何とか
ならないかってもがいて生きて
きたわけでしょ?ホント偉いと思う。」
私は単にDVの件を知って、
「酷いね」とか「大変だったね」と
言われるくらいだと勝手に思っていた。
「ホントよく頑張ったよ」
再度そう伝えられた。
声にならない思いが込み上げて
涙が堰を切ったように流れ出す。
感情を抑える事は到底出来ない。
そうだ、私。
「頑張ってるよね」って
周りが評価してくれても
一番理解して欲しかった主人に
言われた事が無かったんだ。
優しい言葉をかけられる事が無い。
そう分かっている人生の中で今後も
生きていかなくてはならない。
その事実がどれだけ生きる
気力を失くし、人生を味気ない
ものにしてしまうか…
何かが上手く出来た時は年齢も
性別も関係無く、ただ褒めて欲しい。
「凄いね」って側で笑ってくれる
だけでいいのだ。そう、いつからか
心の底からは主人の前で笑えなくなっていた。
主人からはどんな場面でも
「頑張ってるね」の一言は無く、
「所詮、その程度の頑張りだろう」
「頑張ったうちにはいらない」
「俺の方が頑張ってるから」
そう返された。
私は嗚咽を漏らしながら必死で返事をする。
「そんな風に言って貰えて
すごく嬉しい、ありがとう」
苦しかった気持ちを理解して
くれた事に心から感謝を伝える。
以前、若い時に付き合っている相手に
酷い裏切りをされかなり荒れた事が
あると話していた事を思い出す。
痛みが分かる人の言葉だった。
「はっきりとしたDVの事実が分かった。
第三者としてこの事実を知ってしまった
から通報する義務があるんだよ。でも
ここで通報する事で大きなトラブルに
発展する可能性もあるから、どう動き
たいか話をしたかった。というか、
ご主人と話をするのなら立ち会うよ。」
桜の時期になると必ず春の嵐と
表現される強い風の吹く日が数日
ある、今日の風も眼を閉じ、立ち止まる
ほどであった。私は思ってもみない事を
提案され驚きのあまり強い風の中で
立ち尽くしていた。
第一章 ①~⑮ 離婚事由 🈡
一人目の命の恩人
【離婚事由・第一章⑮の続き➡あとがき】につづく☟】
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