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自由律俳句9
明らかに力の掛け方が違う似顔絵
高校生の夏休み、東京に住む大学生の姉のところへ小学生の弟を連れて遊びに行った。
姉と合流しお台場にあった大きなゲームセンターや観覧車で遊んだ後、商業施設に入った。
するとそこには鉛筆画の似顔絵の絵描きさんとそのお弟子さんらしき人がいた。
「せっかく東京に遊びに来たんだし、三人一緒に描いてもらおうよ!」と盛り上がり姉弟三人の絵を師匠の方に描いてもらうことになった。
するとお弟子さんが、「僕も勉強のために一緒に描かせてもらってもいいですか?」というので私達は快諾した。
三人並び、師匠が私達を見つめ鉛筆を走らせる。師匠の後ろで、お弟子さんも鉛筆を走らせる。
そこそこの時間が経ち、師匠とお弟子さんが鉛筆を置いた。
師匠が似顔絵を渡してくれた。
キリッとした芯の強そうな少年に描かれた弟が真ん中に。
そして、クリッとした瞳に輝きを宿した美人さんに描かれた姉が左側に。
そして右側にはギリギリ画角から少し切れている生気の無い目をした他の二人より明らかに薄い一本の線で描かれた私がいた。
モデルの良し悪しは抜きにしても、あまりにも二人とタッチが違い過ぎる。
口には出さなかったが、ツッコミどころが多過ぎた。
こうなるとお弟子さんの絵も見てみたい。
お弟子さんよ、私のこのもやもやする心を救ってくれまいか?
そんな気持ちで、「よかったらお弟子さんの絵も見せてくれませんか?」と尋ねた。
すると師匠が「まだ修行中なので、お見せするわけにはいきません。」と言った。
師匠は頑なだった。
私達はお礼を告げ、静かに似顔絵を鞄にしまった。
今でもこの似顔絵を見ると、一連の流れを思い出し、なんでやねんと呟き、なんだか笑みが溢れてしまう。切なくも面白い似顔絵だ。