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うつ病と私(父親④)

席に座っている父親は、
ここ最近で一番大人しい様子だった。
でも、
親族席に近づくにつれ、
それが異常事態だということがわかり焦った。

父親は口から涎を垂らした状態でぐったりしている。

ホテルの職員が小声で母親に、
救急車を呼んだと伝えてきた。
母親は立ち尽くしてる。

そんな時に、
いきものがかりの「ありがとう」がBGMに流れ出す。
姉がお色直しから帰ってきたのだ。
慌ただしい親族席。
入場してきた新郎新婦も、
只事ではないと察したとてその場は何もできず、
式を続行。

父親は呼びかけても返事がない。
じぃじの異常事態を目の前で終始見ていた息子。
3歳児が母である私に教えてくれた。

お肉食べて寝ちゃったの。

…やばいじゃん。

母親はこの後の披露宴で両家親からの挨拶がある。
姉の人生最高の日を台無しにはできない…
私はその時はまだ離婚しておらず、
主人もいたが子供達がいたので即座の対応が困難。
救急車には妹が同乗してくれることとなった。

でも、
そのまま式に参列したままにもいかないと思い、
私はタクシーで病院に向かうことにした。
身内で救急搬送されたのはこの時が2度目。
不安だった。

搬送先の病院への到着。
父親と妹が病院に着いてから約7分遅れでの到着。
日曜日ということもあり、
救急受入口からの入館だったので処置室はすぐ目の前だった。

入室しようとした時、
妹が中から出てきた。
廊下の壁に全身でぶつかり泣き崩れた。

もうダメだって…
お母さんとお姉ちゃんすぐに呼んで!

訳が分からなかったが、
入室してすぐに理解した。

父親にはたくさんの管と酸素マスクがつけられていた。
ホテルでレンタルした燕尾服は、
ズタズタに切り裂かれていた。
横たわる体の胸部はしっかり上下していたが、
その動きと合わさっていくつもの医療機器の音が響いていた。

…今はまだ繋いでいるので。
ご家族の方全員に早く来てもらってください。
そしたら止めますね。

は?
なにこの医者。
理解しかねる説明にもパニックの為、
言われるまますぐに私は母親に連絡した。

親族一同が到着。
新郎新婦も晴れ着を脱ぎ捨てた形で到着。
医者が父親に繋がっていた機械を全て止め、
現在時刻を読み上げた。

13:42 お亡くなりです。

…ドラマによくあるような…
お父さん!お父さん!
…なるんだね。そりゃ叫ぶよね。
初めて理解した。

その後母親は病院のベンチに座り込んでおり
動ける様子ではなかったので、
3姉妹で父親の搬送後の処置について話を聞いた。

死因:喉に肉が詰まったことによる窒息死、自損事故

ねぇ、
姉ちゃんがサプライズって言ってたよね。
何してんの…

医師からは処置の際に摘出した肉塊を見せられた。
あの時…
父親はフォーク+フォークでやはり切ることができなかったのだ。
全体の3分の2ほどの大きさ。
ありえない。
わかるじゃん…

でもその時の父親はわからなくなっていた。
本当に酔っ払っていた。
止めても聞かなかった。
止められなかった…

姉妹はそれぞれに、
コース料理で肉を出すことを決めたこと。
無理矢理にでも皿を取り上げて肉を切ってやらなかったこと。
無理にでも席に座らせてお酌をやめさせなかったこと。

祝いの席での終始を悔やんだ。

躁うつだと分かっていたからこそ、
強く言えなかった。
言う事を避けていた。
できなかった。

姉の結婚式記念日は、
父親の命日ともなってしまった。

ここで私達家族は一つの心の病との向き合いに終わりを迎えた。
あまりにも最悪であった為に、
私は気持ちのどこかで父親を許せないでいる。
でもそれと同様に、
もっと寄り添わなくてはならなかったとも後悔している。

今抑うつ状態で休職しているが…
遺伝的な事を言えば…
私も双極性障害かもしれない。
その不安はきっとこれからもついて回るだろう。
でも、
知識がある故に自分の中での無意識のブレーキが働く。
これをしたらまずい。
こうなったら危ない。
良いか悪いかはわからない。
でも知っているからこそ、
いざと言う時の対処法はわかっている。

私と家族の「うつ病」との関わり。
過ごした時間は辛い事が多かったけど…
思い出を辿ると…
私はこの家族が大好きだ。

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