うつ病と私(父親③)
再度の休職。
同じ病状での複数回の休職では、
傷病手当はもう申請できなかった。
それまでの父親の蓄えを少しずつ切り崩す生活に、
母親はかなり頭を抱えていた。
母親もまたうつ病を患っているため、
はっきり言えば他者を気にかけて感情表現をできるレベルではなかったのか…
老後の貯金に手をつけ始めてるわよ!
…と父親に事あるごとに言うようになった。
何度か言われたのち、
母さん、パートに出てみる気は無いか?
と父親から提案があったらしい。
社会経験がほぼ皆無の母親に発せられた大黒柱の吐露は、
かなりのダメージだったらしく発狂していた。
かなりの険悪ムードだ。
そんなギスギスの夫婦仲の状態で、
とうとう姉夫婦の結婚式当日となった。
この日が近づくに連れて父親は躁状態へと変わっていた。
式当日はどうやら早朝2時半には起きていたらしい。
いつもの“起床時刻が早すぎる!”と母親が式前にカンカンであった。
都内の有名なホテルでの挙式。
険悪な両親はさて置き、
私も妹も浮かれまくっていた。
なんせ姉妹で初の結婚式。
出される食事がサプライズと姉に言われていたので、
楽しみが倍であった。
私の息子が3歳、
恐れ多くもリングボーイを仰せつかった。
母としては息子の仕事ぶりも不安であったが、
それよりも更に花嫁・その父による入場に、
父親はちゃんとできるだろうか…と心配であった。
しかしそんな心配は不要、
私も妹も早々に涙する感動的なシーンに
ここまで生きてこられて良かったとすら思わされるものだった。
披露宴…
一族は同じ円卓に集められた。
私の隣には父親。
落ち着きがない。
こういう時新郎新婦の親は、
招待客に挨拶とばかりにお酌に行くと思うのだが、
父親は何周も何周もしていた。
これは普通なのか?
いや…やはり異常だろうと思ったが…
止めてもやめなかった。
母親は呆れていた。
挨拶後待ちに待った会食。
オープンキッチンのお披露目。
姉の言ったサプライズだ。
私と妹は上等な肉が出てくると察し興奮は更なるものへとなった。
コースで出てくる料理。
一皿ごとに自席にもどる父親。
席に着く度に徐々に酔っ払い始めていた。
「お箸くださーい!」
新婦の父親、
酔ってるなぁ〜。
招待客の席から聞こえてきた。
…恥ずかしい。
そんな忙しない親族席には関係なく、
披露宴の演目は進みに進み、
お色直しとなった。
私と妹が司会者に呼名され、
姉を送り出すことに。
3姉妹全員が号泣であった。
その姿を入り口付近でビール瓶を抱え、
父親が見ていた。
真っ赤な顔。
目も真っ赤。
酔ってる?感動してる?
…わからなかった。
席に戻ると待ちに待ったメインディッシュの登場。
本当に美味しかった。
滅多に食せないミディアムレアに感動していた私。
しかし隣ではカチャカチャと食器を鳴らす音。
見ると酔いに酔っ払った父親がフォーク+フォークで
肉塊と格闘していた。
頼んでもらった割り箸は、
早々に床に落としていた。
再度頼むことは、
初回の恥ずかしい父親の振る舞いからできるものではなかった。
私「…お父さん、切ろうか?」
父「これ切れねえんだよ。」
母「いいの、言っても聞かないから。ほっといてやって!」
祝いの席でこの会話。
何とも…悲しい。
そこで娘がぐずってしまった。
私は堪能したかった姉からのサプライズを早々に平らげ、
授乳に向かった。
15分後…
お色直しのお披露目にも間に合った!
小走りで娘を抱えて戻ると、
親族席だけ何やら騒がしかった。
見ると父親が天を仰いだ形で、
自席で座り込んでいた。
その横にはホテルの職員・私の叔父・母親が立っていた。
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