鈍重な大男の力任せな殴り合いだったヘビー級ボクシングに、アリはリングを縦横無尽に動き回る華麗なフットワークと、鋭い左ジャブを活用するアウトボクシングを持ち込んだ。また、相手のジャブにカウンターの右ストレート合わせる離れ業や、ブライアン・ロンドンとの試合で見せた2.8秒の間に12発のパンチを放つ驚異的なスピードも持っていた[15]。マイク・タイソンが出現した現代においてもなお、ヘビー級史上最速と評価される(アリを尊敬しているタイソン自身がアリとの比較で「アリは私には速すぎる」と語っている)。蝶のように舞い、蜂のように刺す(Float like a butterfly, sting like a bee)[16]という著名なフレーズは、アリのトレーナーのドリュー・バンディーニ・ブラウンがアリのフットワークとパンチを形容したもので、試合前によく肩を組んで「蝶のように舞い、蜂のように刺す!」と一緒に叫ぶパフォーマンスを見せていた。ノートン戦の敗北後に、ノートンのファンから「蝶は羽を失い、蜂は針を失った」という投書が届き、これを気に入ったアリはジムの壁にこれをテープで貼りつけて毎日眺め、「羽」と「針」を取り戻す決意を新たにしていた。