58 新たなホテルのスタイル「アルベルゴ・ディフーゾ」とは?
アルベルゴ・ディフーゾとは?
最近、「分散型ホテル」というものについて勉強する機会がありました。
ひとつの場所にひとつのホテル、というこれまでの概念を覆し、複数の場所にひとつのホテル、という新しい考え方。
これは1980年代のイタリアで廃村寸前の村を復興させるプロジェクトとして始められた取り組みを起源とする考え方。ALBERGO=宿 DIFFUSO=分散した であり、まさに「分散型ホテル」を意味します。
アルベルゴ・ディフーゾでは街にある様々な施設を宿泊施設の一部に取り込み、地域全体を宿泊施設として機能させます。宿は宿泊だけの機能として、食事は近隣のカフェやレストラン、入浴は銭湯などに任せることで街を訪れた人たちが地域を回遊し、関係人口を増やして街全体を活性化させることにつながるわけです。
事例1 矢掛屋(岡山県矢掛町)
日本で初めてアルベルゴ・ディフーゾホテルの認定を受けたのは岡山県矢掛町の矢掛屋。旧山陽道沿いに本館、別館、さらに備中屋長衛門、蔵INN、蔵INN家紋の5棟の建物に分かれた29室で構成されています。館内に食事処、別館に温泉施設があって建物は分かれていますが宿泊者はこれら施設を利用することができます。建物の間を往来する間に旧山陽道沿いに広がる矢掛の町を散策することができ街の活性につながります。
事例2・NIPPONIA HOTEL 竹原製塩町(広島県竹原市)
広島県竹原市のNIPPONIA HOTEL 竹原製塩町。
かつて塩づくりで栄えた重要伝統的建造物群保存地区の中で、料亭や銀行、遊興施設をリノベして宿泊施設としました。ダイニングはメイン棟にありそちらに向かう途中に歴史ある町並みを散策することができます。NIPPONIA HOTELはこのほかにも奈良や伊賀、丹波篠山など西日本を中心にアルベルゴ・ディフーゾな形態のホテルを多く展開しています。
こういった形態のホテルが近年増加してきているのは、地方の町で過疎化が進み空き家が増えてその活用の必要性に迫られているという現状と、単に旅館に泊まって食事、温泉に入ってそのまま帰るといった形態の旅行ではなく、さまざまな体験や地域の人との交流をしたいという新たな旅のニーズに応えた結果といえます。
事例3・栞日(長野県松本市)
宿泊施設は1室のみなので厳密にはアルベルゴ・ディフーゾとは言えませんが、暮らすように泊まる宿を地でいくホテル栞日。長野県松本市の街中のビル、1Fは書店兼喫茶、その上階3フロアに宿泊します。朝食は1Fの喫茶でいただき、風呂は向かいの銭湯。あとは自由気ままに街をめぐって日々を過ごします。日々を、というのはこのホテルは原則として6泊7日以上の宿泊からしか受け付けていないから。まさに暮らすように泊まる人向けのホテルです。何日もここで過ごせば地域の人とも仲良くなり、地域に愛着も出る。地域全体をホテルとみなすこの形態はアルベルゴ・ディフーゾの趣旨に即したものといえるでしょう。
ちなみに松本市浅間温泉には自遊人が再生を手掛けた2つのホテル、松本十帖があります。こちらもアルベルゴ・ディフーゾの事例ですね。
事例4・真鶴出版(神奈川県真鶴町)
こちらも1棟2室の小さな宿。相模湾沿いの小さな町、真鶴町の出版社が運営している宿ですが、こちらの特徴は「町歩き案内」がサービスでセットされていること。真鶴の町の歴史を説明してくれるのはもちろんですが、地元の人々と話す機会も設けてくれます。顔見知りの人につないでもらえたら話もしやすいですね。朝食は地域の喫茶店の券がいただけ、夕食はレストランを紹介。地元の食材を買って宿で調理もできます。1泊するだけでもかなり真鶴地元民に近づけるような気がしますね。
近年、このように宿を軸に地域を活性化させよう、地域との交流を深めていってもらおうという取り組みが増えてきています。アルベルゴ・ディフーゾはさびれつつある地方都市の起爆剤としても注目されてきています。多額のコストをかけずに多様なニーズに応えることができる利点もあります。今後次世代のホテル形態として大きく成長していくのではないかと感じています。
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