504 地理マニアの私がずっと行きたかった秘境・奥大井を訪ねる
わたしが奥大井を訪ねた理由
わたしは子どもの頃から地理マニアです。三度の飯も、地図が好き。それが乗じて地図で見つけた面白そうな場所に旅に出かけてることが好きです。
過去のnoteでも日本唯一の飛び地の村などマニアックな場所をご紹介してきました。
ところで近年は平成の大合併で面積の大きな自治体が多くなりましたが、わたしが小学生の頃からすでにとても大きかった自治体がとても気になっていました。
それが今私の住んでいる静岡市。市街地は駿河湾に近い最南端に位置していますが市域はとても広く、北は南アルプスの中腹にまで及びます。南端から北端までの距離は80キロ強。東京から小田原までとほぼ同じ距離です。「静岡のツノ」と呼ばれる最北部の山中には一般の人が立ち入ることはできませんが、途中の井川(いかわ)までは大井川鉄道が走っています。ただ井川自体も山中にあり定期の運行は1日2往復。井川駅に来る最終列車は白昼の14:10です。19世紀までは他の地域と隔絶されていて周囲の言葉とは違った言葉が話されていた「言語島」だったといいます。そんな井川を含む大井川の上流地域は「奥大井」と呼ばれ、特に秋は紅葉が美しい場所として知られています。そしてこの秋、子供のころから憧れ(?)ていた奥大井の地を始めて訪ねることができました。
旅の始まりは温泉から
大井川鉄道の接岨峡(せっそきょう)温泉駅にやってきました。鄙びた味わいのある駅です。静岡の自宅からここまで車で1時間40分。通ってきた国道362号はかなりの山道でした。静岡市内から奥大井に続く道はどこも道が細く、ここに来るだけでも秘境感を味わえます。その名の通りここは小さいながら温泉があって行楽シーズンは多くの乗客で賑わいます。
千頭(せんず)駅行きの列車を見送ります。駅を出るとすぐに列車は山中に消えてゆきます。
それではわたしも山中のドライブで疲れた体を癒すため、駅から8分ほどのところにある接岨峡温泉会館で温泉に浸かることにしようと思います。宿泊もできる公共温泉施設です。ぬめり気のある泉質は「若返りの湯」と呼ばれており浸かっていて体が包まれるようないい気分になります。
大井川鉄道の終端、井川へ
接岨峡温泉からはまた車に乗って山道を往き、大井川鉄道の終点井川駅に向かいます。この区間は列車が1日2往復しかないので車を使ったハイブリッドな旅が有効です。
駅の近くまで来ましたが、列車が出るまでまだ少し時間があったので大井川鉄道の末端、井川の街歩きをしたいと思います。「街歩き」と言いましたが駅前にあるのは大きなダム。井川の集落は駅から離れた場所にあり駅前に民家はありません。
ダム湖の近くにある遊歩道を少し行ったところに鉄道の廃線跡がありました。今は終点となっている井川ですがかつてはその手前から分かれて堂平駅まで列車が走っていました。1996年まで発電所建設のための貨物輸送を行っていたので比較的保存状態がいいです。
井川夢の吊り橋
もう少し時間があったので車で夢の吊橋も訪ねました。そんなに長い吊り橋ではないのですが足元にある板は苔が生えていて若干滑りやすい。複数人が歩けば揺れるので結構スリリングです。
井川駅から大井川鉄道で秘境へGO!
列車の時間が近くなったので井川駅に来ました。12:25と15:15しか列車は来ません。乗り遅れはご法度です。こんな山の中でもまだ静岡市。そしてその北まだまだ山の奥深くまで続く静岡市。恐るべし。
駅舎の中にはゆるキャン△のキャラのパネルが並んでいます。静岡・山梨を舞台に女子たちがゆるくキャンプを楽しむ漫画、ゆるキャン△では大井川地域も舞台となっていて井川も訪ねています。ちなみにわたしはイヌ子(右端)推しです。
列車はすでに私たちを待っていました。山の中、少し高くなった場所に低床のホームが作られています。過去には何度か土砂崩れで駅が埋まりそのたび廃線の危機に直面しました。
定刻に列車は出発しました。1日2本しか列車が来ないのに駅員配置しているのがうれしい。手を振って見送っていただきました。
ほどなくして列車はくねくねとした線路の上を走りつつ山中に入っていきます。周囲に民家は全くありません。もともとこの路線はダム建設の資材輸送のために造った路線で地域住民の利用を見越して作ったものではありません。鉄道の運営は大井川鉄道がしていますが、所有者は今も中部電力です。
まとまった集落があるのは接岨峡温泉駅だけで途中駅はすべて秘境駅です。閑蔵駅はスギ林のど真ん中にあります。ホームのすぐ裏にこんな林がある駅は見たことがありません。
尾盛駅と閑蔵駅の間にあるの関の沢橋梁は日本で一番高い鉄道橋梁です。のぞき込んだんですが…あまりに高すぎて谷底がよく見えません。対岸の林道からこの橋はよく見える場所があるそうです。
さらにすさまじいのはその先の尾盛駅。閑蔵駅はまだ道路が目の前にあって集落もないことはないのですが、ここは道路がなく鉄道でないとアクセスすることはできません。北海道の小幌駅と同じような状況です。ここで下車したら次の列車に乗らないと脱出することができません。
列車が駅に近づいたとき、鹿が駅から逃げていくのを発見しました。
列車がいないとき、この駅は動物たちのパラダイスのようです。鹿だったからまだよかったですが、ここで降りて次の列車を待つまでにもし熊が現れたら…と思ったら身震いします。
人一倍賑わう奥大井湖上駅
次の接岨峡温泉駅で多くの乗客を乗せると列車はダム湖である接岨湖を渡ります。ターコイスブルーの湖面が印象的です。この辺りは水の透明度が高く、波長の短い青い光だけが反射され、波長の長い赤い光が吸収される「チンダル現象」が起きるため特に水の青が際立って見えます。穢されていない、澄んだ水であることの証拠です。
この湖を眺めつつ次の奥大井湖上駅で下車します。鉄道が好きな方なら知らない人はいないと思います。周囲に民家のない秘境駅でありながら下車する人がとても多い観光駅です。
その理由はこの駅の立地。大きく湾曲した接岨湖に突き出た半島の先端に駅はあります。湖上の島と勘違いしてしまう人も大勢います。遊歩道を登れば駅を見下ろせるポイントがあってここから眺める奥大井湖上駅周辺の景色は屈指の絶景ポイント。ダム湖が造る独特な地形美が地理マニアの心にも刺さります。
ほどなくして反対列車がやってきました。街のある千頭側から来た列車はより多くの観光客を乗せています。揺れるススキに見送られながらわたしはこの列車で井川に戻りました。
おわりに
初めて訪ねた奥大井の大井川鉄道末端部。ダムがつくられ、それなりに観光地化も進んでいて隔絶された場所ではありませんが、少し山に入れば道路さえない駅や古い吊り橋が残るなど非日常的な秘境感を楽しめる場所だったと思います。これから秋が更けていくと紅葉もより一層美しくなります。絶好の行楽シーズンである奥大井の旅にみなさんもぜひ一度お出かけください。
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