サイエンスコニュニケーターと社会課題
人々は、自分たちの生活がより良くなるような技術を求める。技術者は、新しい技術を開発し、社会を良くしようとする。しかし、技術が開発されてから、社会に実装されるまで、長い時間がかかる。なぜ、技術を社会に実装するのに時間がかかるのだろうか。なぜ、技術を社会に実装するのは難しいのだろうか。
その原因について、技術者、行政、市民の間に意識のギャップという側面から考える。この3者では、持っている情報、ものの見方、考え方が異なっている。技術者は、技術をどのように社会に実装するか考える。行政は、法的に問題はないか、行政として予算が必要かを考える。市民は、その技術の良い側面だけではなく、安全か、自分たちの生活に悪影響はないか、とも考える。
課題解決のためのコミュニケーションのポイントは次の4点である。第1に、「納得するコミュニケーション」である。市民に対する説明では、理論やデータを用いた論理的な説明だけではなく、感情として納得できる説明が必要である。第2に、「データを用いた合意形成」である。感情には、今までのやり方を続けたいという思いや、経験則から今のやり方が最適だと感じていることが背景にある場合があるが、これに対しては、データを用いた説明が有効なことがある。第3に、「個別の技術について、個人、共同体、社会全体の視点で考える」である。その技術を使うことは、個人にとっていいものであるか、その個人が属する共同体のルールに反しないか、また、社会全体として受け入れられるものかを考える必要がある。第4に、「わからないものは危険とみなす」である。市民は、技術について理解が不足していると、危険なものと考えるので、技術者はその技術が安全であることを証明しなければならない。
以上のことを踏まえて、私はサイエンスコミュニケーターとして、次のことを実践し、課題解決をはかりたい。まず、市民の感情を理解し、どのような説明が必要がを技術者に伝える。そして、技術者の言葉を市民に分かりやすい言葉で説明できるようサポートをする。この他にも、サイエンスコミュニケーターの立場によっては、行政に対し、その技術がどのような法に当てはまるのかを伝え、行政の意見を聞くこと。行政の意見を技術者に伝え、クリアすべき問題を技術者に伝えること。技術の社会への実装に適合しない規定について、行政に市民の意見を伝えること。技術に関わる法の趣旨を社会全体の問題として考えるきっかけを作ることなど、サイエンスコミュニケーターにできることは、多くあると考える。