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腐れ縁だから
ドスッ
「っす」
挨拶らしき吐息と同時に真由の右膝蹴りが冬馬の尾てい骨にヒットする。
「……」
ってぇ、という言葉をなんとか呑み込み、なるべくバレないように尻をさする。いやかなり痛い。これを小学生の頃から毎朝食らっている。そのうち骨折してしまうんじゃないだろうか。なんていうんだっけそういう蓄積していくやつ、そう疲労骨折。
「授業なくてラッキーだよね」
今日は年度始めの体力テストデーだ。保育園から同級生の真由はスポーツ万能、身体も柔らかくて開脚なんか180度開く。中学生になってから急に背が伸びて真由を追い越した冬馬の尻にも、毎朝日課の膝蹴りがバッチリ届く。こういうのなんていうんだっけ、成長する竹の上を毎日飛び越える的な修行……竹じゃなくて麻だっけか。
「だりぃな」
冬馬は運動が苦手だし身体も異様に固い。立位体前屈では指先が床のはるか上で震えている。
「今年も全種目A判定いただき!」
真由は張り切っている。
「オレはEでいいよ」
ん?シャレを言うつもりはなかったんだが……
「ってぇよーーー」
冬馬が言ったら許さない泣き言を真由は盛大にのたまう。
何かの種目で足を挫いたらしい。
いったん整形外科に連れて行かれて、足首に包帯を巻いて戻ってきた。
歩いて下校できるか先生に聞かれた時、同じ方向の冬馬が付き添うから大丈夫と勝手に決めたらしい。
「肩かして」
岩のように重い通学カバンを二人分背負い、自分より背の低い真由に肩を貸せるように身体を変に傾ける。腰をやられそうだ。
真由の密着した身体から熱気と息遣いが伝わってくる。
真由がバランスを崩して、冬馬の前に倒れ込み、咄嗟に冬馬のネクタイを掴んだ。
「ぐぇっ」
くちびるに、何かが触れた。
何か、柔らかいものが。
真由がくちびるを離す時、生温かい鼻息が冬馬のくちびるにかかった。
「えっ、なに?、なんで」
「いーーーーんだよ、うちら腐れ縁なんだから」
真由はなぜか怒っている。
「く、くされえんてなに」
「ググれカス」
「いや、だけど、ダメでしょこういうのって、あれでしょセクハラ
ゴッ
グーで殴られた。痛い。
「ひっぅっ」
聞いたこともない音声を発して真由は身を翻した。泣いているようにみえた。
そして全速力で駆け出した。普段なら絶対に追いつけないが、今は片足を捻挫している。遅い。
尾てい骨は疲労骨折しそうで、ファーストキスは奪われ、グーで殴られ、だけどこの状況を、放ってはおけない。
これが腐れ縁なの?
おしえてぐーぐる。
こちらの企画に参加させていただきます。
山根あきらさん、よろしくお願いします。