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山村留学で体験したこと⑤火のある暮らし
都市部ではオール電化などがもてはやされ、もはや火を見たことがない子どもがいるとも耳にすることがあります。キャンプで初めて火に触れる子も少なくないとも聞きます。都市生活は火とかけ離れてしまいました。私は火が好きで山村留学に来る前からキャンプに行ったり森のようちえんで焚火をしたり家でキャンドルを焚いたりと火に触れる生活を楽しんできましたが、山村留学で山奥に来てから、ここぞとばかりに火のある生活を楽しみました。
こちらに引っ越してきた当初は契約していたガスも空き家への引っ越しとともに解約。お料理はカセットコンロと炭と小枝。冬は石油ストーブ。幸いなことに我が家の周りは杉だらけ。杉の葉はよく燃えるため毎日のように拾いに行ったり、家の裏は山なので山に薪を拾いに行ったり、お散歩コースには着火に利用できる松ぼっくりも豊富に落ちているので燃料にはことかかない。豊富な森林資源を最大に利用して、時間がかかる煮ものやら山菜のあくとりなどガス代を気にせずにがんがんできたのが嬉しかったです。
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この辺りは厳しい寒さをしのぐため薪ストーブの家庭も多く、火のある暮らしが基本です。新年には集落ごとに大きなやぐらが組まれ、その火の迫力には圧倒されます。
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炭や薪で焼く食べ物はなんとなくどれもこれも格別でついつい食が進んでしまいます。火を眺めながらじっくり焼く時間も最高の調味料。これがキャンプなど特別な時ではなく日常の中にあることがとても幸せでした。ただ時間はかかるので、4時くらいから夕食の支度をして、忙しい朝などはカセットコンロのガスにお世話になりながら、無理のないように火とつきあってきました。
我が家のお風呂は灯油で沸かすボイラータイプでしたが、集落にはまだ薪で焚いているお風呂が残っていて、夕方には薪ストーブや薪ボイラーからたちのぼる白いけむりがあちこちで見られます。
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まだ囲炉裏の残るお宅もありました。炭を足しながら、ちろちろ揺れる火を眺め、みんなで鍋を囲む。ゆったりとじっくりと流れるその時間は都会生活では味わえなかった時間でした。
山村留学に来て一番の収穫は子どもの成長はもちろんですが、私自身が火のある暮らしを通して自分にとって心地よい生活のリズムを見つけられたことではないかと思っています。火を起こし徐々に育っていく炎をみながらぼぉ~っとする時間は図らずも私を癒してくれました。都会に生まれ育ち、分刻みにいつもあちこち動いていた私。いつも何かに追われているような、焦燥感に苛まれていることにも気づけなかった。ゆっくりと火を起こし、じっくりと煮炊きする空っぽの時間が、何よりの癒しであり、人間の根源に戻っていくような、不思議と生命力が培われていくような、宝物の時間であったと、そんな生活の終わりを目前としてひしひしと感じています。