優しさの造形【AKI INOMATA】
他者と共同で制作活動をするアーティストはたくさんいる。
ドキュメンタリー的な映像作品や、ワークショップで作品を制作し思いもよらなかった他者の動きを織り交ぜて造形に落とし込むなど。
動物の習性を取り入れて作品を制作するのが、AKI INOMATA。
彼女の作品は愛おしいで溢れている。
最近鑑賞したのはあいち2022で《彼女に布をわたしてみる》と《ミノガ絞り団扇・ヒモミノガ絞り団扇》。
ミノムシに小さな布片を渡して巣筒(いわゆるミノ)を作ってもらうという試みである。この作品は過去に《girl,girl,girl…》(2012/2019)で行った手法と同じではあるが、本作の展示会場となった岡屋住宅が江戸時代末期の有松の絞り問屋であることから、有松・鳴海絞りのミノを纏っている。木の葉や枝を纏っているミノとは違う鮮やかさが目を惹く。
思わずその懸命にミノを纏っている姿が愛おしくかわいいという言葉が出た。
このミノムシの装いは昔の子供の遊びを参照しているということはこの記事を書くときに知った。ノムシの着せ替えと言ってミノムシに色紙や毛糸を与えてミノをつくらせる蓑遊びがあったようだ。
彼女の名前を有名にしたのはヤドカリの作品だろう。《やどかりに「やど」をわたしてみる》というシリーズはヤドカリに3Dプリンターで作成した建造物付きの「やど」を渡して、気に入れば引っ越しをしてくれる、といったなんとも人間臭いような作品。見た目はクリアで美しく、スマートさすらあるが、あくまで「気に入ったら」作品が成立するというところに母性を感じてしまう。
私が一番好きなのはビーバーに彫刻を作ってもらう作品。
5つの動物園のビーバーに木材を渡して歯を研ぐためにかじったり、巣材にしたりしてできた木材の形を元にした《彫刻のつくりかた》という作品を発表している。
かじりやすいところをかじったんだろうな、折れる寸前までかじってるな、というような思考が読めて愛おしさが出てしまう。こちらも齧ってくれなかったら作品として成立しないが、彼女はそういうところも受容しそうな気がしてならない。
※ちなみに私の大好きな長崎バイオパークではビーバーがかじった歯形付きの枝がキーホルダーになって販売されているらしい。彼女の作品の気配も感じるし手に入れるしかないのでは…
インコにフランス語教室に同行してもらう作品もチャーミングで大好き。彼女の作品はいちいち鑑賞者の驚きと母性本能みたいな部分をくすぐる。
彼女は今度は何を動物たちに与えるのだろうか?
作家紹介
■AKI INOMATA
1983年東京都生まれ。
※あいち2022の作品