見出し画像

読書感想文:高野和明「ジェノサイド」

かなり前から「読みたい本」リストに入っていた本。電子版がないので放置していたら、友達から紙の本が回ってきた。ハリウッド映画のようなスケールの娯楽小説、という評判通り。ホワイトハウス大統領執務室の様子も、日本人が書いた本だとスカした翻訳っぽさがなくて気持ちよく読めるもんだなあと感心。

痛快アクションに人類とは暴力とは何ぞやという深遠なテーマを絡ませていて、読後に「この感じはいつか味わったな」とデジャヴを覚えて記憶を探る。あれだ、「ダヴィンチコード」シリーズを読んだときの感じだ。下手すると軽薄の極みになるアクション映画のような小説で、こんな重いテーマを語ってよいのか?という。

それは作者も感じていたのではないか、と思わせる場面のひとつが、アフリカ少年兵の描写。家族を殺され母親をレイプすることを強制され殺人マシーンに仕立てられ、主人公の一人に射殺される少年兵の回想シーン。割かれたページ数の少なさと残虐描写に「この場面、要る?」となる。ただし作者がこの場面で言葉を足しても、それはそれでバランスが悪くなるだろう。

子供を救うために戦う主人公が子供を殺すという矛盾こそ、この本のテーマ「ジェノサイド」に関わってくるので「この場面は要る」のだが、かけるべき字数に作者はすごーく悩んだことだろう。純文学じゃなくて娯楽作品ですよ?子供に対する究極の虐待を娯楽のネタにしていいんだろうかって。

レビューを少し読んでみたら、ここ問題にしてる人はあまりいないみたいで、低評価の人が批判しているのは「左翼的な視点」。南京大虐殺とか韓国人を美化しているとか日本人キャラが悪役だとか、そんなことが気になるらしい。ふーん。

歴史認識の「誤り」は気になるのに、難病の治療薬が一ヶ月でできたり、CIAの陰謀ネットワークを掻い潜ってアフリカ紛争地帯から脱出できたりするのは構いなしなのか。そうかそうか、娯楽小説では著者の勇気とかに気を遣うことなく好き勝手に楽しめば良いということね。

悪役の合衆国大統領はブッシュがモデルだな。ラストで悪役に向けられる視線に愛があって個人的にはたいへん好感が持てる。今時のアメリカ人に読んで欲しい。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集