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運動システムの作動の特徴 番外編(その2)
訓練を導き出すのにあまり利用できないので、焦点を当てていないもう一つの運動システムの作動の特徴は「(予期的な)運動認知」とでも呼ぶものです。
たとえばあなたの目の前の平坦な広い場所を横切って幅1メートルの溝があります。あなたがその前に立つと、自分がその溝を渡れるか,渡れないかは実際に試して見なくても分かるはずです。
若い健康な男女なら「渡れる」と思うはずです。でもタイトスカートやハイヒールを履いていると無理と思うかもしれません。男性でも溝がとても深かったり、ヘビがうようよしていたりすると不安が強くて「ダメ」と判断するかもしれませんね。
こんなふうに人はその場の状況と運動課題から、その運動課題が『できる』か『できない』かがやらなくても予めわかるものです。これを「(予期的な)運動認知」と呼ぶことにしました。
なぜ予期的にカッコをつけるかというと、CAMRでは「運動認知」という言葉だけで予期的という意味を持たせているからです。CAMRでいう運動認知とは、「過去の様々な運動の経験や環境の知識を基に、これからの課題達成の方法を生み出したり、その運動結果を予期的に知ったりすることができる知識と経験の体系」なのです。それでここから先は単に運動認知と呼びます。
CAMR誕生以前にはこの運動認知は評価に使えると思っていて、実際にいくつか研究をしてみました。
たとえば被験者の目の前の床に置いたテープを次第に被験者から離していきます。そして被験者に、このテープを踏まないで跨げる一番遠い距離を見積もってもらいます。これを見積もり値とします。その後実際にこのテープを跨いでもらい、これを実際値とします。また見積もり値を実際値で割ったものが見積もり比となります。その他に成功率なども調べます。
この検査をAE(Auto-estimatics)と名づけています。上記のものはAEの「跨ぎ課題」で、他にも様々な運動課題で見積もり値と実際値を比較します。それぞれの距離は各被験者の下肢長で割って、身体の大きさによる違いを均します。
実際に跨いで見積もり通り成功するかどうかをみて、運動の随意性「思い通りに動いているか」を知ることができるわけです。
以下に跨ぎ課題に対する研究の一部を紹介します。
①浦川,西尾ら(1991)の研究では、18歳から76歳の自宅で生活している自立歩行をしている371名(男性172名 平均年齢42.9±13.2歳、女性199名 平均年齢40.3±17.1歳)で、跨ぎ課題を実施しました。
結果、平均的な実際値は下肢長の1.4倍で、見積もり値は下肢長の1.3倍。見積もり比は0.91となり、成功率は99%になります。
つまり自立歩行している方は平均して下肢長の1.4倍程度跨げる身体能力を持っていて、見積もり値は1割程度の余裕を持って見積もっているため、跨ぐという課題に余裕を持って成功していると考えられます。
④田上と西尾(2008)は歩行している片麻痺患者20名をブルンストロームステージの分類で重度群10名と軽度群10名に分けました。実際値は軽度群が有意に高かったものの、成功率については差が見られませんでした。麻痺の程度にかかわらず随意性は差が見られないのです。
⑤田上と西尾(2012)は屋外歩行自立の片麻痺患者11名を歩行開始時から評価しました。開始時には平均的な成功率は30.4%だったが、30日目には成功率は100%になりました。片麻痺患者は歩行開始から概ね30日程度で跨ぎ動作に関しては健常者とほぼ同程度、見積もり通りに動けるようになったと考えられます。
これらの研究から片麻痺患者さんは、身体能力では健常者に劣っています。しかし運動認知という点では、障害による身体変化に上手く適応しています。そして随意性では健常者と変わらないことを示しています。
つまり訓練や様々な運動経験を通して、片麻痺患者さんは適正な運動認知を獲得しうるわけです。
ここまでやってみるとAEは、「訓練効果の評価」や「自立歩行が可能かどうかの予測」にも使えそうですが、それらについては研究を進めていません。
というのも歩行についての訓練効果の判定には10メートル歩行の方がAE検査よりも簡単なので次第にそちらに移行してしまい、研究を止めてしまいました(^^;)
興味がある人がいれば,研究を続けていただければと思っています(^^;)最後にAuto- estimaticsの跨ぎ課題の主な研究のリストを紹介しております。
運動認知のアイデアはCAMRの理論的体系の中心的存在ですので、「状況性」や「課題特定性」というより大きな作動の特徴を組み立てるときの基礎となっています。(その3に続く)
1)浦川純二他: 健常者のAuto-estimatics評価における運動認知能力検討. 第36回日本理学療法士学術大会演題抄録集, p27, 2001.
2)西尾幸敏他: Auto-estimatics(オートエスティマティクス)によって見るCVA患者の運動障害と運動変化の特徴. 第5回広島県理学療法士学会抄録集, p10, 2000.
3)田上幸生他: 麻痺側下肢の随意性に関する一考察- Auto-estimatics(オートエスティマティクス)を用いて. 第15回中国ブロック理学療法士学会抄録集,p30,2001.
4)西尾幸敏他: 急性期片麻痺患者の麻痺側下肢を支持、振り出しそれぞれに使った時のパフォーマンスと運動認知の違いについて-オートエスティマティクス(Auto-estimatics)による分析. 理学療法学Supplement 2008年 2007 巻 715, 2008.
5)田上幸生他: 片麻痺患者の麻痺の程度がパフォーマンスや随意性に与える影響について-オートエスティマティクス(Auto-estimatics)による分析. 理学療法学Supplement2008年 2007 巻 715, 2008.
6)田上幸生他: 片麻痺患者はいつ頃から思い通りに動けるようになるのだろうか?
─オートエスティマティクス(Auto-estimatics)を用いた調査報告. Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集), 2012.