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こりゃ売れるって! MEGUMI著『キレイはこれでつくれます』のとてつもない破壊力を解説します

10万部超えで大爆走中

いま売れに売れまくっている美容本、発売後1ヶ月も経たずに10万部超えで大爆走中の1冊が、タレントMEGUMI氏の著書『キレイはこれでつくれます』(ダイヤモンド社)である(追記:2023/06/06 時点で25万部を超えたとのこと)。なにしろメチャクチャ売れているのだ。Amazonの売り上げ1位も獲得したが、これは同じタイミングで村上春樹の新刊が出ていることを考えれば、相当な記録だといえる。春樹超え。リアル店舗でもいちばん目立つ場所に平積みされているし、先日はついに電車内にまで広告が出ているのを見かけた。電車内に書籍の広告が出るのは人気本のあかしであり、マジで読者が増えているということだ。こうしてベストセラーを生み出したMEGUMI氏を横目に、私は焦りを感じていた。どうして、何の取り柄もない地味な中年男性が対抗意識を燃やしているのかと問われれば、私もまた美容本の著者であるためだ。

今年2月に、男性向け美容本『電車の窓に映った自分が父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出版した私は、同じ美容本ジャンルの著者として、「本を出したことを広く知ってもらう難しさ」「話題性を持たせ、売り上げに結びつけるたいへんさ」を身にしみて感じていたところだった。当初、私は本を作りながら「これは最高傑作」「メッチャ売れる!」と本気で思っていた。おめでたい性格である。あはは。10万部だってイケると思ってたのよ。しかし、本の存在を知ってもらうのって難しい。あー、どうしてMEGUMI氏はあんなに売れてるんだ。もちろん「お前みたいな小物が嫉妬してどうする」って話でしかないんだけどさ、やっぱ同じ土俵に立った以上は、負けたくないじゃん? って気持ちはあり、どうにか本の存在を知ってもらいたくてがんばっているが、そうかんたんには行かない。だからこそ、驚くべきMEGUM氏の快進撃に、抑えきれない嫉妬心が湧き上がってくるのであった。

「キレこれ」を読んだ

今後、美容業界におけるMEGUMI氏のポジションはぐっと重要度を増していくだろう。だってこんな大ホームランを打っちゃったんだから。なぜMEGUMI氏はここまで開花したのか? 私はそれを知りたかったのである。彼女はいったいどのように、読者へ美容を伝えているか。なぜ、山ほどある美容本のなかで、このように抜きん出た結果を出せたのか。10万部超えの謎を解き明かすべく、「どれほどのもんじゃい!」と鼻息荒く書店へ駆け込んで当該図書を購入、さっそく書店のとなりにあるスタバへ駆け込むと、激しい勢いでページをめくってみた。コーヒーを飲むのも忘れるテンションで一気に読了した私は、うん、うんと深くうなずきながら「こりゃ、売れますわ……」と納得していたのである。そして、本を読んでいるあいだにすっかり冷めたコーヒーをすすりながら、完敗、って思ったの。こんな美容本出されちゃったら、勝てる訳ないよ。いっけん気軽に読める内容だが、MEGUMI氏の強い意志、確たる方向性がはっきりと打ち出された1冊であった。この本は多くの読者に支持されるだろうし、ヒットしたのもよくわかる。

MEGUMI氏の画期性がもっとも印象づけられたのは、スキンケアを扱う第1章の冒頭で宣言される「続けるなら『ルルルン』一択!」であった。「あっ、その手があったか」と目が覚めるような新しい着眼点だった。もちろん、スキンケアに興味のない男性は「ルルルン」などと言われても何のことかよくわからないだろう。説明すると、「ルルルン」とはどのドラッグストアでも手に入る、低価格で気軽に買いやすいフェイスシート(顔面パック)のことだ。32枚セットで約1900円。1枚およそ60円と、お手頃価格で顔の保湿ができる。「朝晩フェイスシートをつけて保湿する」という、MEGUMI氏の美容メソッドのなかでも最重要に位置するルーティンを説明する際、使うなら「ルルルン」を買うべしと解説されているのが画期的なのだ。これはなぜだろうか。MEGUMI氏は「つかうたびに罪悪感を感じずにすむ値段設定」が大切であると述べる。「『どうせなら最高のものを』と思うことが『続ける』の落とし穴になる」からこそ、どのドラッグストアでも安く手に入る「ウルルン」でスキンケアをしようと主張しているのだ。ムリをしないこと。その通りだ、と思った。実に鋭い。

いいなぁ〜本がいっぱい売れて

MEGUMI氏の美容メソッドとは

美容を続けるために、邪魔になりそうなあらゆる障害物を取り除いていく。それがMEGUMI氏の考える「キレイのメソッド」である。値段の高い製品を買い、使うたびに「これ、結構高い製品なんだよね。使うのもったいないな……」と思う気持ちが積み重なっていくと、それが原因でいつか美容から遠ざかってしまう可能性がある。それならば、安くて気軽に使える製品を買って、心の罪悪感を取り除くべきだと彼女はいうのだ。また、スキンケア製品やメイク道具を、リビングやキッチンといった、普段自分がもっともよく過ごす場所に置いておけば、すぐに手を取りやすく継続しやすくなるから、美容に関する道具はできるだけ生活動線の中心に置いておくというアイデアも提案されている。「スキンケアをするために隣の部屋へ行く」、そのひと手間をなくそう、というわけだ。テレビを見ながら、入浴後にお茶を飲みながら、すぐにスキンケアができる動線をととのえるべしとMEGUMI氏は書いている。これはなかなか鋭い意見ではないか。こうしたアイデアは、これまでの美容本にはあまりないユニークなものだ。これまで生活動線の話をした美容家(美容業界で影響力のある立ち位置の人物をそう呼ぶ)はいただろうか。

顔はスチーマーを使って保湿した方がいいけれど、いきなり高い製品を買うのはたいへんなので、Amazonで5000円で買えるスチーマーを使いましょう。スチーマーに精製水? あー、そんな面倒なことしなくていい。水道水でじゅうぶんです。これがMEGUMI氏の美容メソッドの真髄だ。とにかく続けること。そのために、なるべくムリをしないこと。お金をかけすぎないこと。この思想がすみずみまで徹底しているのが「キレこれ」なのである。クーッ。私自身、研究のため美容本はたくさん読んだが、多くの場合、美容本の著者は高級なスキンケア製品を紹介する傾向があったと思う。たしかに高価な製品はすぐれた品質であることが多い。香りが印象的、感触が心地よいなど、価格に比例して質は上がる。高級な製品は容器も美しく、テンションも上がって気分がいい。人にじまんしたくなるようなきらめきもある。私自身、高級なコスメ・スキンケア製品が悪いとはまったく思っていないし、大好きだ。

「安くてつかいやすいので愛用中」

また何より、どこでも買える安価なスキンケア製品を紹介するのは、どこか「プロっぽくない」「情報としての価値がない」感じもあって、せっかく美容本を出すなら、ディオール、ランコム、クレ・ド・ポーと高級品を紹介してビシッとキメてみたいという風潮があるような気がする。一例として、手元にある某美容家の書籍をめくって、紹介されているスキンケア製品とその値段を見てみよう。そこに書かれてあるのは、コスメデコルテ(10000円)、マリークヮント(15000円)、ドゥ・ラメール(19000円)、ポーラ(20000円)、スック(30000円)などである。そんな空気のなかで、平然と「ルルルン一択」と言えるのが、MEGUMI氏の強さなのだった。それはたとえば、「どこのチョコレートが好き?」という話題で盛り上がり、「私は、表参道のジャン=シャルル・ロシューかな?」「表参道なら、ジャン=ポール・エヴァンもおいしいよね」「丸の内のパティスリー・サダハル・アオキ・パリがお気に入り~」などと語り合っている雰囲気のなかで、元気いっぱい「私はブラックサンダー!!! おいしさイナズマ級だよ」と宣言できるような肝っ玉の太さなのだ。

日々のスキンケアやメイクのメソッドはていねいに解説しつつ、紹介する製品を低価格におさえる姿勢は本書を通じて徹底している。彼女のポーチに入っているメイク道具は、メイベリンのマスカラ(1089円)や、ケイトのアイブロウパウダー(1210円)だ。「安くてつかいやすいので愛用中」と書くMEGUMI氏。「ああ、これでいいんだ!」と開眼した読者も多いだろう。もちろん、彼女がシャネルのアイシャドウを買えないはずはないのだが、何より「ムリをしない」という姿勢で読者の支持を得ているように思う。スキンケアやメイク以外にも、日々の運動やサウナ、マッサージ、美容医療など、セルフケアのあれこれに挑戦しつつも、どれも地に足のついたMEGUMI氏の美容メソッドは、彼女が40代を迎えて獲得した説得力とも関係しているように思う。いろいろな苦労や社会経験、出産や年齢による身体の変化を経た40代だからこそ、語れることがある。思うに美容家は40代を迎えてからが黄金期であり、発言に力強さと「その通りだ!」という共感がもたらされるのではないか。

サウナは週2回だそうです

美容家としてのライフストーリー

グラビアアイドルとして年の3分の2を南国ですごした20代。日焼けで肌の状態が悪くなり、テレビに出るたび容姿の悪口をネットに書かれて苦しんだ30代前半。そこから美容を本気でやり始めて、自分を変化させていった30代から40代前半。こうしたライフストーリーにも共感を抱いた。いま活躍している美容家にはみな、結婚や子育て、仕事など、ひとりの女性として生きていくストーリーがあるが、MEGUMI氏にもまた、過去の失敗や不安を包み隠さず語る姿勢があり、読者に支持されるはずだ。私は、美容家には、本人の背後から浮かび上がるライフストーリーが必要だと思っていて、そうした面でもMEGUMI氏にはポテンシャルがあると私は思う。

美容にはたくさんのよろこびや輝きがあるが、現実には円高だ、物価高だと世知辛い昨今、美容にそこまでお金をかけられない人も多い。そんななか、親しみやすく気取りのない姿勢、それでいて美しさへの妥協はない、というあらたな美容の方向性を打ち出してきたMEGUMI氏の鋭い視点に、クレバーな女性だと納得した「キレこれ」の読後感であった。生活と美容がつながっているのが最大の特徴である。それにしたってうらやましい。こんな本を作って売れちゃうMEGUMI氏がねたましいと思う私であった。もちろん、努力の人MEGUMI氏と、そんなに努力してない私とでは、このくらいの差が開いて当然なのだけれど……。きっと美容雑誌にもたくさん登場するだろうな。今後の活躍に期待大。

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