映画「バビロン」で観る、ハリウッドの闇と幻想
毎年2月になると、通常業務に加え
THE 確定申告
という左脳をフル活用する、普段とはかけ離れた業務に追われます。
私のような右脳派な人間にとっては、リアルな数字との格闘に疲労困憊に。
ああ、優れた左脳を持った人間に生まれたかった、と痛切に感じます。
さらには今年からインボイス制度も始まり、そもそもなんぞや?と仕組みから勉強する始末。
左脳はクリエイティビティとは相性が非常に悪く、確定申告中は作品作りをする余裕がなくなります。
おかげで私の大事な右脳が、どこかに居なくなってしまいました 笑
そんな時は映画を観て
「右脳、カムバック!!」
です。
疲れた脳を癒しに、久々に映画館へ行ってきました。
観た映画は「バビロン」
いやーー、面白かったです!!
まさに、ハリウッド映画好きによるハリウッド映画のための映画。
興奮冷めやらぬ中、感想を書かせていただきます。
(ネタバレが多いので、観ていない方はご注意ください!)
舞台は1920年代のハリウッド黄金時代。
「狂乱の20年代」とも言われている時代でもあり、当時のハリウッドはまだ生まれて間もない無法地帯。
禁酒法の最中、お酒、ドラッグ、セックスに溺れながら、映画界では日々映画を制作。
サイレント映画が主流の中、ルールもモラルも何もなく、全てが自由で過激で何でもありな時代でした。
そして1927年、初トーキー映画「ジャズ・シンガー」が上映されると、映画業界は一気にトーキー映画へと舵を切ります。
さらには1928年の大恐慌時代と共に、激動で波乱な30年代へと突入。
そんなハリウッドの大革命時代に翻弄された人々の群像劇となっています。
個人的にはハリウッドの歴史が赤裸々に垣間見れて、それだけで相当面白く。
赤裸々すぎてハリウッドを敵に回したのか、2022年のゴールデングローブ賞ではノミネートされたものの、肝心のアカデミー賞の主要部門はノミネートはならず。
ユダヤ人の罵倒シーンもあり、黒人差別と共に実際にそうだったんだろうなと。
(近代のアカデミーはユダヤ人率高し)
物語の冒頭は、映画プロデューサーの屋敷で繰り広げられる、ドラッグ・セックス・バイオレンス何でもありのパーティー描写から始まるのですが
「煌びや」かというよりは、もはや「カオス」。
同時代を描いた映画「グレート・ギャツビー」のパーティーシーンとは訳が違う。
これは子供には見せられませんね〜。
「狂乱の20年代」と言われるのがよく分かる描写です。
さらには次の日、当時のハリウッドの撮影現場が映し出されるのですが、これまた驚愕すぎて圧倒されます。
この時代って砂埃が舞い上がる、本物の荒野で撮影をしていたんですね。
大激闘の撮影で、実際にエキストラが死ぬは、カメラは10台も壊れるはで散々な目に。
そして陽が沈むと撮影も終了という。
それが前半で、テンポよくにコミカル且つシニカルに、そして壮大に描かれています。
なんて土臭い20年代!
煌びやかな黄金期ハリウッドのイメージをことごとく覆されました。
前半が断然好きです。一気に魅せられました。
配役は
サイレンス映画の大御所役にブラッド・ピット
スターを夢見る破天荒な新人女優役にマーゴット・ロビー
という大変豪華なキャスト陣。
ブラピ演じるジャックは、サイレンス映画の大スター。
ところがトーキー時代に入り、人気は一気に転落。
最後には自殺をしてしまいます。
ジャックは元々実在したサイレンス映画のジョン・ギルバートがモデルだそうです。
彼も実際にトーキーとともに人気が低迷して38歳の若さで自殺をしてしまいます。
自分の時代は完全に終わったと分かり、彼が言ったセリフ
「でも、けっこう頑張ったよな」
という一言がグッときます。
過酷なハリウッドに居続けているブラピ自身、ジョン・ギルバートの思いが痛切に共感できたのでしょう。
ブラピ自身を投影しているかのようなハマり役で、最後まで彼の演技がリアルで素晴らしかったです。
ちなみに、ジョン・ギルバートをモデルにした映画は他にもあり、2012年の「アーティスト」がそうです。
「アーティスト」はアカデミー作品・監督・主演男優など、主要5部門の賞を受賞。フランス人がハリウッド全盛期時代を描くという、一味違う映画になっています。
個人的には「バビロン」の方が面白かったです。
マーゴット・ロビーの存在感もものすごく素晴らしかった!
とても華がありますね。
旬の女優の映画を、リアルタイムで映画館で観るのは贅沢なものです。
アカデミー賞では「アイ・トーニャ」で主演女優賞、「スキャンダル」で助演女優賞とそれぞれノミネート。
今回ノミネートされなかったのが不思議なくらいです。(やはり赤裸々すぎてハリウッドを怒らせたからか!?)
今のハリウッドで、ビッチ役を演じたら彼女の右に出るものはいないのでしょうか 笑
若い頃のニコール・キッドマンに似ているなと思いきや、彼女もオーストラリア出身でした。
そして監督は油がのりに乗った、デイミアン・チャゼル。
映画『ラ・ラ・ランド』で史上最年少(32歳!!)で監督賞を受賞しています。
映画とジャズが大好きな監督、幼い頃から映画監督になるのが夢で、一度はジャズミュージシャンになろうとしたこともあるそう。
出世作の「セッション」は、彼自身のことがよく表れた映画となっています。
「ラ・ラ・ランド」の冒頭は、誰がみても映画史上に残る名オープニングだし、「セッション」の最後では裏切りからのジャズセッションシーンは鳥肌が立ちます。
そんな監督が撮ったハリウッドの歴史映画なのですから、面白くないはずがありません。
映画と音楽の情熱愛が、迸るほど伝わってきました。
特に最後のシーンで、映画「雨に唄えば」と共に流れる『大きなもの(=映画)』との融合シーンは圧巻。
映画と精子が一つとなり、エクスタシーとなって溢れ出ているかのよう。
こんな表現方法があるとは、、チャゼル、これは映画界のタブーを打ち砕いたのでは!?
と思いながら、もはや映画ではなく別の何か壮大なものを観ている感覚に。
ハリウッドの光と闇。
ジョン・ギルバート以外にも、当時の激動な時代に消え去った人は数知れず。
サイレントの俳優のほとんどがいなくなったそうです。
今のハリウッドはその人達の命と無念さで成り立っているのです。
(ビリー・ワイルダー監督の映画「サンセット大通り」は、まさに時代に取り残された元銀幕スターの末路を儚く描いています。)
監督はインタビューで、「バビロン」では、ハリウッドの闇の部分を撮りたかったとハッキリと語っています。
豪華絢爛なハリウッドの表舞台とも言える「雨に歌えば」をオマージュとして取り入れつつ、敬意を込めてその裏の顔を赤裸々に暴くというのが、なんとも憎い。
同時に、とてもチャゼル監督らしさが出ているのではないでしょうか。
ジーン・ケリーの有名な雨のダンスシーンは、ハリウッドの亡霊を代表するかのよう。
たとえ全てが虚像であり幻想だとしても、やはり素晴らしい名シーンでもあり、それは永遠に輝き続けるのです。
映画「バビロン」
全体的にやりすぎなのではないかと、賛否両論分かれていますが、私は大好きな映画です。
こんなに映画に愛を込めた、素晴らし作品を作ってくれて、チャゼルをはじめ皆様にありがとうと言いたいです。
特に最後の『大きなもの(=映画)』との融合シーン、これは酷評が多いのですが、右脳派と左脳派の意見で大きく分かれる所なのではないでしょうか。
左脳派の理論性を求める人には難しいかもしれません。
私のような右脳派な人間は、すっかり左脳がとろけて右脳パワー全開に。
揺さぶるクリエイティブ魂を吸収させてもらいました。
映画ってやはり素晴らしいですね!
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