【句集紹介】生死 永田耕衣句集を読んで
・紹介
男にとって母は特別な存在である。フロイトはそのことをエディプスコンプレックスと呼んだが、しかし、残念ながら大半の男にとって、母の偉大さ、尊さを思い知ることになるのは、母の臨終に際してなのである。短歌では斎藤茂吉が「死にたまふ母」で、そして、俳句では永田耕衣が「母三句」(小生が名付けて愛唱している)にて、母の死を見事に詩に昇華させた。
朝顔や百たび訪はば母死なむ
寒雀母死なしむること残る
母死ねば今着給へる冬着欲し
永田耕衣の句は、俳句っぽくない。禅問答のように、扱うテーマは重く、常に、生と死について洞察している。破調、字余りの句も多い。しかし、フローベルがかつて「極度に集約された思想は詩になる」と看破したように、永田耕衣の句は、やはり詩になり、そして俳句になっている。
永田耕衣の句は、万人受けはしないと思う。しかし、あるものにとっては、聖書となるべき程の言葉の力を秘めている。下記の小生厳選10句に興味を持たれて方は、是非、本書をご一読していただきたい。
・厳選10句
恋猫の恋する猫で押し通す
朝顔や百たび訪はば母死なむ
寒雀母死なしむること残る
母死ねば今着給へる冬着欲し
死螢に照らしをかける螢かな
さよならをいつまで露の頭蓋骨
野菊道数個の我の別れ行く
生れ際に謝罪する蛾よ天の川
コーヒー店永遠に在り秋の雨
秋霜や綺羅裡綺羅綺羅それでよい
・作者略歴
永田耕衣。明治33年兵庫県加古川市生。本名、軍二。高校卒業後、三菱製紙会社に就職。昭和30年同職研究部長を終任退職。琴座(リラザ)を主宰。ニヒリズムの作風。禅的思想に通じ、重い題材を冷静に句に読み込む。平成2年現代俳句協会大賞。平成8年死去。享年97。
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