【句集紹介】海 三橋敏雄句集を読んで
・紹介
三橋敏雄は新興俳句のホープであった。
渡邊白泉や西東三鬼に師事し、戦前の俳句界の期待の若手の一人であった三橋敏雄。しかし、戦争は彼の句作にも大きな影響を与えた。京大俳句事件である。彼も準会員として、京大俳句に参加していた。年少だった故、検挙まではされなかったが、彼の師等はことごとく捕まってしまった。新興俳句は冬の時代を迎えた。
しかし、彼の俳句への情熱は消えなかった。その頃より古典俳句の研究を開始し、俳句の腕を磨いていった。
戦後の社会性俳句には懐疑的であった。故に俳壇への復帰はさらに時をおくことになる。その間も俳句の研究を続け、現代俳句的な意向と、古典的な意向とを昇華させた独自の俳句観(彼言葉を借りれば厳正独立の句)を持つに至ったのである。
今回紹介する句集は、「海」である。三橋敏雄は海の男でもあった。彼は戦後間もない昭和21年から昭和47年まで、帆船の事務長として船上生活を行っていた。そんな海に生きた男の海について詠まれた句が本句集になる。
見たことがない、感じたことがない、エキゾチックな景色なのに、どこか懐かしい。彼の句の特徴である。そんな独特の世界観を厳選10句で楽しんでくれたらと思う。
・厳選10句
海くらくいなづましろき砂丘あり
かもめ来よ天金の書をひらくたび
揺るる吊ランプを囲むみな船乗
夕べ浮ぶ黒髪移民潜水夫
沖へ沖へ孤独な船長命令す
浸る教科書海透明な夏の終り
生存者一人沖より泳ぎ着き
曳かれくる鯨笑つて楽器となる
来て異邦海港の夜のポストオフィス
或時の操帆術を夏の夢
・作者略歴
三橋敏雄。1920年東京都八王子市生。書籍取次の関係で俳句と出会う。渡邊白泉・西東三鬼等に師事。新興俳句無季派の俳人となる。戦後は練習船事務長として勤務の傍ら、無季俳句の好題である戦争にこだわり詠み続けた。1989年「畳の上」で第23回蛇笏賞受賞。2001年没。
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